近況
2024年3月号

ジェネラリストとしての役割 ~13年間のマネージャーの仕事を終えるにあたって~

大迫 政浩

2011年の4月に、筆者は資源循環分野の研究ユニットのまとめ役になり、13年が経とうとしています。当時は、東日本大震災やそれに伴う原発事故が起こった直後の非常時でした。オンラインマガジン「環環」の再スタートとなった7月号には、「非常時の対応力」と題して、非常時のマネジメントにおける組織や意思決定の課題やあり方について思いを述べています。それは、当時のマネージャーとして、自身への問いかけでもありました。あれから13年が経過し、私もその役割を終えようとしていますが、振り返って、自身がマネージャーとして常に意識してきたジェネラリストの役割について、少しお話ししたいと思います。

一般的にジェネラリストとは、さまざまな分野の知識やスキルを持った人材を指し、組織において広い視野を持ち、多角的視点から方向性を見出し、組織全体を横断的にまとめ上げる役割を担います。まさに、マネージャーに必要な要素です。一方、スペシャリストとは、特定の分野における専門的な知識・スキルを有する人を指します。研究者は一般にこの部類であり、筆者自身もその道を歩んできたつもりです。

ただ、筆者が大学時代に学んだ「衛生工学」は、ひとつの専門分野でありながら人の命を(まも) る総合的な工学であり、衛生・環境問題の解決のために様々な伝統的学問を学際的に融合させた総合的学問になります。そのため教授陣からは、ジェネラリストの必要性も同時に教えられました。そして、資源循環分野もまた、学際的なアプローチが必要な複合的かつ総合的な領域です。資源問題や廃棄物問題は、社会経済活動そのものが要因になり、根本的解決には技術的対応だけでなく社会経済システムの変革まで切り込んでいかなければなりません。したがって社会科学を含む様々な専門分野のスペシャリストの知見を投入し融合させていかなければなりません。ジェネラリストの役割はそこにあります。

現在、私たちの社会には「変化」が求められています。気候変動などの環境問題を克服するには、持続可能な社会への変化、転換が必要です。しかし、どのように転換していけばよいのか、真に有効な解決策はなかなか見いだせていません。そして、このような「変化の時代」だからこそ、一般社会においても、学術の世界においても、まさにジェネラリストとスペシャリストの連携が必要です。ジェネラリストは、現代の複雑かつ複合的な課題に対して、スペシャリストが有する多様な技術やアイデアを融合させるプラットフォームなどの仕掛けをつくり、解決に導くための新たな知識を生み出していかなければなりません。

抽象的な話になりましたが、冒頭の東日本大震災後の非常時の話に戻します。巨大災害は、社会に対して不連続ともいえる急激な変化とそれへの対応を迫ってくる事象です。東日本大震災やそれに伴う原発事故の複合災害は、人類が経験していない未曽有の災禍であり、目の前にして誰もが立ちすくまざるを得ない状況でした。私たちも最初は同様でした。しかし、組織内の様々なスペシャリストの仲間の専門知を結集し、また、日本全国の専門家ネットワークのプラットフォームをつくり、さらに、行政や産業界との連携を強化して、国立研究機関としての中核的役割を果たしてきました。私自身、組織の先導役の立場で、ジェネラリストとしての役割を多少とも果たせたのではないかと思っています。このように、特に災害のような非常時には、ジェネラリストとしてのマネジメント能力が必要になります。原発事故による放射能汚染問題には、除去土壌の再生利用や福島県外での最終処分など、多くの解決すべき課題が山積しており、これからも長い道のりが続きます。今後立場は変わっても、自分に与えられたジェネラリストの役割を引き続き果たしていきたいと思います。

さて、別稿でお知らせしていますが、資源循環分野の様々な研究成果の情報を提供してきたオンラインマガジン「環環」は今回で終了します。長い間ご愛読いただき誠にありがとうございました。今後の資源循環分野からの情報発信は、「国環研View」に移行しますが、これまで育んできた「環環」の精神を後進に引き継き、資源循環分野の研究成果を新たな媒体においても分かりやすくお届けしていきたいと思います。最後に、今後とも国立環境研究所の資源循環分野の研究展開に注目していただき、新しい資源循環ユニットへの応援を引き続きお願いして、稿を結びたいと思います。

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