循環・廃棄物のけんきゅう
2018年8月号

バクテリアによる水銀のメチル化
~最終処分場における水銀廃棄物の安全な管理のために~

尾形 有香

はじめに

微生物反応は、最終処分場内の有機物分解を担い、最終処分場を安定化するために必要不可欠な存在です (環環2015年12月号環環2007年5月号)。しかしながら、この有機物分解の過程において、二酸化炭素やメタン等の温室効果ガスや硫化水素等の有害ガスを排出することはよく知られています(2015年5月号 2011年9月号)。加えて、微生物反応は、有機物だけでなく金属の化学形態の変化にも深く関与しています。今回は、一例として、微生物と水銀の化学形態変化の関わりを考慮した、最終処分場における水銀廃棄物の適正管理法の構築に関する取り組みについて紹介します。

平成29年8月に、水銀に関する水俣条約1 (https://www.env.go.jp/chemi/tmms/index.html) が発効し、水銀の用途が制限されることで、中長期的には水銀含有物を廃棄物として処理・管理を行う必要性が高まっております。今後、最終処分場での埋立量の増加が見込まれ、最終処分場における水銀廃棄物の安全で適正な管理方法の確立が求められます。

水銀のメチル化反応

水銀は、環境中において、化学形態が変化することが知られており、特にメチル水銀は、ヒトを含む生物に対して高い毒性を示します。水銀廃棄物の安全で適正な管理方法を確立するためには、最終処分場内における水銀の放出や移動性に加え、水銀のメチル化による有害性の増加についても把握することが重要です。自然環境中において、一部の硫酸還元菌、鉄還元菌やメタン生成菌等によって、無機態水銀がメチル水銀に変換されることが報告されています2。硫酸還元菌および鉄還元菌は、メタン生成菌よりも、水銀メチル化速度および生成量が高いことが確認されており、自然環境中における水銀のメチル化反応への寄与が大きいものと考えられています。近年、水銀のメチル化反応を担うタンパク質をコードする遺伝子として、hgcAB遺伝子が報告されました3。水銀のメチル化には、メチル基を水銀に転移させる酵素HgcAと、メチル化に伴って酸化されたHgcAを還元してHgcAに戻すための電子供与体として機能するHgcBという2種類のタンパク質が関わっていることが明らかになっています。

hgcAB遺伝子を対象とした水銀のメチル化ポテンシャルの調査

自然環境中の水銀のメチル化反応に関する知見は集積されつつありますが、最終処分場でのメチル化水銀の実態については、ほとんど解明されていません。私達のグループでは、hgcAB遺伝子を対象とし、実際の最終処分場における水銀のメチル化ポテンシャルについて調査を行っています。これまでのところ、大半の試料からはhgcAB遺伝子は検出されませんでしたが、一部の試料からは、試料の深度や水銀濃度に関わらず、hgcAB遺伝子が検出されました (図1)。ただし、hgcAB遺伝子の存在量と水銀含有量の間には相関はなく、水銀含有量以外の他の因子が、hgcAB遺伝子の存在量に関与していることが推測されました。また、最終処分場より分離した硫酸還元菌 (図2) のうち、25%の硫酸還元菌がhgcAB遺伝子を保有していることを確認しました。hgcAB遺伝子を保有する硫酸還元菌は、最終処分場の環境下においても、生存できる可能性が示されました。最終処分場における水銀のメチル化のリスクを低下させるためには、硫酸還元菌の反応を抑制することが重要となります。硫酸還元菌は、一般的に、偏性嫌気性の従属栄養菌ですので、対策例としては、硫酸還元菌の基質となる有機物との混合埋立を避けたり、嫌気的な環境とならないように最終処分場内の排水が悪くなりやすい場所(中間覆土の上や排水管周辺)を避けたり、豪雨時に一時的に処分場内の水位が上昇しても水に浸からない位置に埋立場所を設置するなどが考えられます。

図1 最終処分場試料の深度および水銀濃度とhgcAB遺伝子検出の有無の関係性図1 最終処分場試料の深度および水銀濃度とhgcAB遺伝子検出の有無の関係性
hgcAB遺伝子検出無し (●), 有り ()
図2 最終処分場から分離した硫酸還元菌図2 最終処分場から分離した硫酸還元菌

おわりに

水銀廃棄物が環境上適正な方法で管理されるように、廃棄物の処理及び清掃に関する法律 (廃棄物処理法) が改正されました。改正された廃棄物処理法では、混合基準や強度、形状・大きさ等、定められた方法に従い硫化・固型化した上で、基準への適合性を判断することが規定され、水面埋立処分をしないことや、その他の廃棄物と混合するおそれのないように他の廃棄物と区分すること、雨水が浸入しないように必要な措置を行うことなどの、微生物による水銀のメチル化反応の抑制を含めた対策が組み込まれています。詳細は、こちらをご覧下さい4(https://www.env.go.jp/recycle/waste/mercury-disposal/)。実際、廃棄物処理法に準じて、単独埋立を模擬したカラム試験を行ったところ、この試料からは、hgcAB遺伝子が検出されませんでした。今後は、hgcAB遺伝子の存在量とメチル水銀の生成速度や生成量の関係性を明らかとし、水銀廃棄物の適正管理に実用可能な解析ツールの開発を進めていきたいと思います。最終処分場の適正な管理方法の構築には、微生物反応の特性を理解し、制御することが重要となります。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 環境省:水俣条約について
  2. C.C. Gilmour et al., (2013) Mercury Methylation by Novel Microorganisms from New Environments, Environmental Science & Technology, 47, 11810-11820
  3. J.M. Parks et al., (2013) The Genetic Basis for Bacterial Mercury Methylation, Science, 339, 1332-1335
  4. 環境省:水銀廃棄物関係
  5. 環境研究総合推進費 3K153004「水銀廃棄物の環境上適正な長期的管理のための埋立処分基準の提案」
<関連する調査・研究>
【第3期中期計画】
【第4期中長期計画】
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