循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2007年5月21日号

埋立地ガスのモニタリング方法の開発

山田正人

 生ごみなどの有機物を含む廃棄物を最終処分場(埋立地)に埋め立てると、微生物の働きにより腐敗が進み、ガスが発生します。そのガスを埋立地ガスと呼びます。 廃棄物周辺に空気(酸素)がある状態で発生するガスは、私たちが吐く息のように二酸化炭素と水蒸気が主ですが、地中では酸素はすぐに消費されて無くなり、初期には水素と二酸化炭素、時間が経つと二酸化炭素、メタン、水蒸気などが発生するようになります。

 埋立地ガスのうち、メタンは引火・爆発する性質があるため、最終処分場の管理や跡地利用の障害となります。また、メタンは二酸化炭素よりも地球温暖化に与える効果が強い温室効果ガスであり、発生の抑制が必要です。 さらに、時間経過と共にガスの組成や発生量が変化してゆく様は、廃棄物が安定化する(廃棄物の分解や反応、廃棄物からの汚染物の放出が収まって、環境への影響が無い土になっていく)過程に対応しており、 最終処分場の管理を終了できるかどうかを見極める指標となります(そのための判断基準(廃止基準)※1には、「埋立地からガスの発生がほとんど認められない、又はガスの発生量の増加が2年以上にわたり認められないこと」という条文があります)。 したがって、最終処分場で埋立地ガスをモニタリングすることは、土地から地域、地球まで、様々なレベルの環境保全に必要なことなのです。

図1 埋立地ガスの放出経路(管理型処分場の例)  しかし、最終処分場の現場では埋立地ガスのモニタリングはあまり行われていません。測りなさい、という決まりはあってもその方法がよくわからないからです。これは世界で共通した問題です。例えば、京都議定書では、温室効果ガスの排出源の一つとして 「固形廃棄物の陸上における処分」が挙げられ、メタン等の排出量を評価するため、廃棄物として埋め立てた有機物の量より計算する方法が提示されているのですが、特に欧米以外の国※2では、モニタリングデータが不足しており、計算した値が正しいか判断する術がありません。

 廃棄物から発生した埋立地ガスは、地下を拡散し、地表面、通気装置(ガス抜き管)ならびに保有水等集排水設備を経由して大気へ放出されます(図1)。これら放出経路で特にデータが不足しているのが、地表面からの放出フラックス※3です。 埋立地ガスのほとんどは通気装置から放出されると考えがちですが、処分場によっては地表面からも相当量のガスが放出され、また、特に海外では通気装置が設置されていない処分場が多数を占めます。

図2 静置式チャンバー法  さて、そのモニタリング方法ですが、農地や森林などで地表面フラックスの計測によく用いられているのは、静置(閉鎖)式チャンバー法(図2)で、底の抜けた箱を地面において、一定時間ごとに箱に溜まるガスの濃度を測定し、フラックスに換算するものです。 この方法は簡単で、どのような場所にも使えますが、測定面積(持って運べる箱の大きさ)が小さいため、フラックスの大きさが位置によって大きく違う最終処分場では、数百ヶ所以上の地点を測定しないと全体のフラックスを表せないという欠点があります。

 そこで私たちは、より容易に測定する方法として、埋立地全体のフラックスを地表面の温度分布やメタン濃度分布により推定する手法を開発しました。前者は、廃棄物の腐敗によりガスフラックスが大きい地点では、微生物代謝による熱のため地温が周囲より高くなることを利用します(図3)。 地温が高い領域(ホットスポット)は、サーマルビデオカメラによって見つけることができます。後者は、ガス漏れ検知用に開発されたレーザーメタン検出器を用いて、メタン放出領域を探し出します。

図3 地表面の温度分布(等温度線:℃)と地表面メタンフラックス(プロット:g/m2/hr)

 こうして開発されたモニタリングの方法を、我が国だけでなく廃棄物排出量の増加が見込まれる開発途上国等で使うことで、最終処分場の管理の改善や地球温暖化対策などに必要なデータが得られるものと考えています。

※1
廃棄物処理法に基づいて国で定められた技術的な基準である「一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令」(昭和52年3月14日 総理府・厚生省令第1号)
※2
欧米では、廃棄物を直接埋め立てることが多く、埋立地表面に大気や降水が入らないような覆いをし(「嫌気性埋立」)、配管を敷設して、ガスを回収して利用しています(したがって、ガス回収量のデータがあります)。
※3
単位面積当たりの物質の移動(放出)量。g/m2/dayやL/m2/hrという単位で表します。
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 山田正人:埋立地ガスのモニタリング、新政策(特集号「負の遺産にしない埋立処分場」)、pp.78-81、2001
  2. Ishigaki,T. et al.: Estimation of methane emission from whole landfill site using correlation between flux and ground temperature, Environmental Geology, 48, pp.845-853, 2005
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