けんきゅうの現場から
2017年7月号

ごみがコミュニティに三つの価値を生み出した
-インドネシア・あるごみ社会起業家の取組み

久保田 利恵子

貧困層への所得機会を提供する「ごみ銀行」の社会的企業的側面

インドネシアでは、家庭などで発生したごみをコミュニティで分別回収し、ごみをリサイクラーに売却した金額を住民たちが市中銀行のように貯蓄、引き出し出来る仕組みを「ごみ銀行」と呼んでいます。(ごみ銀行の詳細についてはこちらの記事もどうぞ:http://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201703.html)ごみ銀行はインドネシアの環境森林省が2008年省令を施行し、政策的に普及を始めたことと、企業のCSR活動によって、必要なノウハウや機材が継続的に提供されていることから全国的に急速に数を増やしており、今では5000を超えるごみ銀行が存在すると言われています。特に、所得があまり高くない人たちにとっては、捨てるだけなら無価値なごみをごみ銀行に持ち込むことで現金化できることから、経済的な魅力を背景にごみ分別とごみ銀行への持ち込みが広がっています。今日はこれまで訪問したごみ銀行の中でも特に活発な社会起業的取り組みをしている首都ジャカルタ南部のデポック市にあるバロンさんが運営するごみ銀行をご紹介します。

ごみが問題なのではない、人の価値観やライフスタイルが問題なのだ

写真:ごみ銀行Komunitas WPL 写真1:ごみ銀行Komunitas WPL
写真:バロンさんご夫妻 写真2:バロンさんご夫妻

デポック市で2003年に活動を始めたごみ銀行Komunitas WPL(写真1)のバロンさんご夫妻(写真2)がごみ銀行を通じて実現したいことは、ごみを減らすことだけでありません。大事なことは、持続可能ではない人の価値観やライフスタイルに変化をもたらすこと、だと言います。これまでごみを分別する習慣のなかった人たちに習慣を変えてもらうのは難しいのでは?と尋ねると、「最初は2世帯しか参加していなかったけれど、今は140世帯がごみ銀行を利用しているよ。価値観や習慣は変えられるんだよ。」と自信を持ってバロンさんは言います。ごみ銀行にはごみ問題という環境問題を解決することだけでなく、収入が少ない人の収入を増やすこと、ビジネスを立ち上げたい人に融資すること、教育資金を提供することなど経済的な意味があります。また、デポックのコミュニティの人々が協働できる横のつながりを作る、といった社会的な意味もあります。参加する住民たちにとっては、環境や社会に貢献できるという感覚がライフスタイルを変える原動力になるのだそうです。このようにバロンさんご夫妻とごみ回収するビジネスを行う一般的なリサイクラーの違いは、個人的な経済的価値だけを追求するのではなく、デポック市のコミュニティに環境、経済、社会の側面から価値をもたらしているからです。このように利益追求だけでなく、社会的な課題をビジネスの手法を使いながら解決する団体や個人を社会起業家と呼びます。

ごみ銀行への貢献を担保にしたマイクロクレジット

バロンさんご夫妻が特に力を入れている活動はビジネス起業のために少額の融資を行い、ビジネス開発や融資完済までのアドバイスなども併せて行うマイクロクレジット「ROKETSプログラム(写真3)」です。仕組みはこうです。ごみをごみ銀行に持ち込んで、一定の残高が貯まった人の中で起業したい人はKomunitas WPLにビジネスプランと共に融資を申し込みます。ビジネスプランの内容によって融資額が決まりますが、融資を受けるにあたって利子はゼロです。この時の融資を受ける条件として、ビジネスから発生したごみ、家庭から発生したごみを分別してごみ銀行に持ち込まなければいけないことがあります。Komunitas WPLでは、これまでの14年間で、総額2億4千万ルピア(日本円で約200万円)を資本として、50名ほどの起業家をサポートしてきました。一社当たりの融資額は多くはありませんが、これまでに地元で獲れる海鮮品を使った食品加工・販売し始めた主婦などをサポート(写真4:商品のポスター)しています。バロンさん夫妻は自らのこれまでの経験を活かして、支援している起業家たちにビジネスのノウハウも伝えています。

  • 写真:ROKETSプログラム写真3:ROKETSプログラム
  • 写真:商品のポスター写真4:商品のポスター

「やって見せ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

Komunitas WPLはバロンさんご夫妻が、夫はビジネスとエンジニア、妻は文化人類学という専門性を組み合わせ、住民との対話を重ねながらデポックのコミュニティに必要な取り組みは何か、住民たちが求めるものは何かを探ってきました。その結果がごみ銀行の活動を広めることであり、ごみ銀行を通じて環境教育をすることであり、マイクロクレジットの仕組みを提供することにたどり着きました。これ以外にも、教育を十分受けていない人たちのために読み書きを教えたり、本を提供する活動や、医療保険を持たない人たちのための医療費分の貯蓄を促す活動も行ってきたりしました(医療費助成制度はバロンさんら社会起業家が国政府に提言し、今は国のプログラムが立ち上がっています)。イラスト:もとこバロンさんご夫妻は、まず自分たちがやらなければ、人は動かない、をモットーとしています。必要なもの以外買わないこと、モノはなるべく修理して長く使うこと、自分の家から出るごみもすべて分別して、有機ごみはコンポスト、それ以外のごみはごみ銀行を通じてリサイクルすることを実践し、子どもたちにもそのように教育しています。見出しの言葉は山本五十六という人が遺した言葉ですが、バロンさんご夫妻の社会起業家としての活動は、この言葉の実践を通して(もちろん山本五十六の事は知らないでしょうが)、デポックでリサイクルとマイクロクレジット支援を着実に進めています。

ROKETSプログラムの支援フロー
起業したい人がごみ銀行(Komunitas WPL)にごみを持ち込み→預金額が一定額以上になり、ビジネスプランが認められれば融資→ごみ銀行から起業家へビジネス上、融資返済上のアドバイス→起業家はビジネスで発生するごみをごみ銀行に持ち込み、ごみ銀行の預金額+返済額で融資を返済する
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