けんきゅうの現場から
2016年4月号

研究成果のつたえかた

肴倉 宏史

研究成果の発信の機会

わたしたち研究者は、論文を投稿したり、学会で発表したり、雑誌に記事を書いたりして、色々な機会に研究成果を発信しています。成果の発信先は専門家や関係者など特定の人達に限られる場合もあれば、この環環の記事のように、一般の方々も含まれる場合があります(※ただし、環環の記事には研究成果だけでなく、この記事のようなものも含まれますが)。

また、わたしたち研究者は、成果を発信するだけでなく、皆さんと同様に、発信された成果に触れる機会もたくさんあります。一般の方々も同様に、発信された成果に触れる機会がたくさんあると思います。成果発信の形式としては、論文、学会発表、雑誌記事など、様々な形があり、形式も、想定される受け手(許容される専門的な内容)も異なります。

さて、皆さん、成果を受ける側として、同じカテゴリー(論文、学会発表、雑誌記事などのそれぞれ)の中であっても、良くわかる成果発信と、どうも良く理解できない成果発信があると感じたことはありませんか? なぜそんな違いが生まれるのかがわかれば、受け取ってもらいやすい成果発信ができるでしょう。そこで今回は、私のつたない経験から、研究成果のつたえかたについて持論を述べてみたいと思います。

「新しい知見」を詰め込みすぎない

そもそも何故、研究成果を発信するのでしょうか? それは、自分たちの研究成果を知ってもらうためでしょう。受け入れて貰うため、認識してもらうため、などとも言い換えられます。したがって、研究成果の発信者は、つたえようとしている研究成果を、受け手に正しくつたえなければなりません。重要なのは、発信者がつたえようとしている研究成果は、受け手にとっては初めて触れる新しい知見である、ということです。もちろん、既に知られている場合もあるでしょうが、イラスト発信者は、何も知らない受け手にも分かるように、成果発信の全体の内容を考えることが大切です。

受け手が同じ分野の専門家なら、発信しようとしている論文、学会発表、雑誌記事などの内容の90%はすでに知っていて、残りの10%だけが新しい知見の場合もあるでしょう。しかし一般の方なら、そのほとんどが初めての内容かも知れません。このような、受け手が既に持っている知見の多寡を考えておくことも重要です。受け手の既知量を想定して、発信する成果物に含める項目を考えましょう。私は、一度に、率直かつ正確に受け入れてもらえる「新しい知見」の量というのは、それほど多くはないと感じています。そこで、すでに共有できている知見をまずはお互いに確認しつつ、少しだけ、新しい知見を上乗せするのが、本当につたわる成果発信の形ではないかと考えています。

ルールを守る

新しい知見をつたえようとするときは、できるだけストレスなく受け入れてもらえるように配慮することが大切です。そのためには、まず、ルールを守るということが必要です。指定された書き方を全く守らない論文や、形式や時間を守らない発表では、知見を受け入れてもらえない、つまり『つたわらない』可能性が高くなります。例えば論文では、図のタイトルはその図の下側に、表のタイトルはその表の上側に付けるのが基本的ルールです。これが逆になっていたら、この論文を書いた人は経験が浅く、指導者のチェックも不十分で、執筆要領も確認できていない、注意深さの足りない人だとみなされるでしょう。また、幾つかの項目(A, B, C, D, E…)を並べたら、最初に並べた順番を後で変えるべきではありません。もし後の方で異なる順番で書かれていたら(例えばC, E, A, D, B…)、受け手は順番が変わった理由を考え込んでしまうかもしれません。つまり、まず信頼してもらい、さらにはスムーズに理解してもらうために、ルールを守ることが重要です。

わかりやすい構造にする

さらに受け手のストレスを考えると、研究成果の発信者は、成果発信の内容がどんな組み立てになっているのかをわかりやすく示す工夫が必要です。論文では、「背景・目的」「方法」「結果」「考察」「結論」という形式が定まっているので、これに従うと良いでしょう。目的と結論がきちんと対応していることも、必要です。学会発表などでは、最初の方のスライドでアウトライン(全体の構成)を示したり、スライドにページ番号を付けたりすると、今はどの辺の説明なのかが受け手にとってわかりやすくなります。新しい言葉が出てきたら、きちんと説明してから使いましょう。一つ一つの文章の長さも、できるだけ短くします。

このように、受け手を道に迷わせないよう、配慮に配慮を重ねましょう。以上のようにすれば、発信した成果は受け手にしっかりと受け止めてもらえるでしょう。皆さんが成果発信をする立場に立ったときに、参考にしていただければ幸いです。

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