けんきゅうの現場から
2015年4月号

使用済み自動車を対象とした有害物質の調査:化学分析までの遠い道のり

梶原 夏子

自動車と化学物質

日本では2002年7月に「使用済み自動車の再資源化等に関する法律(自動車リサイクル法)」が成立し、エアバック、フロン、自動車シュレッダーダスト(ASR:Automobile Shredder Residue)の処理責任が明確化されるとともに、使用済み自動車(ELV:End of Life Vehicle)のリサイクルが積極的に推進されてきました。その結果、これまで大半が埋め立て処分されていたASRのリサイクル率が大きく向上し、2009年度にはELV全体の重量当りのリサイクル率は95%程度に達しています。その一方で、ELVリサイクル過程やASR処理過程における重金属類や難燃剤成分といった有害物質の挙動把握が課題となっています。

道路運送車両法により、自動車の内装には燃えにくい材料の使用が規定されています。そのため、車内は難燃剤等による曝露が一般室内より高い可能性があります。また、車内には様々な樹脂製品があるため、有害性の懸念されているその他の樹脂添加剤の挙動も気になるところです。化学物質の室内曝露を包括的に評価するためには、車内環境の調査は重要であり、中でもヒトへの曝露経路としては車内ダストを通した非意図的取り込みに着目する必要があると考えています。

イラストそこで我々は、ELVを「循環資源」および「ヒトに対する有害物質の曝露源」という二つの視点から調査対象とし、自動車部材や車内ダスト、ASRに含まれる広範な化学物質を測定し、その含有傾向の把握および部材からダストへの移行メカニズムの推定などを試みています。調査結果は別の機会に報告することとし、今回は、調査現場を含めた試料採取の状況や試料調製の苦労などを紹介します。

ELV解体工場にて

自動車から研究試料を採取するため、国内のELV解体工場に調査の協力およびサンプリングの許可を得ました。実際に調査できる試料数は限られているため、ELVが山積みになっている工場構内を歩き回りながら、普通車や軽自動車、輸入車のメーカーやモデル、製造年代ごとに希望車種をその場で判断してピックアップしていきます。現場の方に調査対象車をフォークリフトで一か所に集めていただいた後、まずは乗車スペースからのダスト採取に取り掛かります。コードレス掃除機にサンプリング用ナイロンメッシュを装着し、床面からと座面・ダッシュボード上からの2種類に分けてダストを採取しました。ダスト採取が終わった車から順に、内装部材の採取に移ります(ダストを先に採取するのは、部材採取時に発生した細かな粉じんなどが車内ダストに混入する可能性を避けるためです)。各車両から、乗用部分で表面積の大きい内装部材9種類(シート布地、シートウレタン、シート側面プラスチック、ダッシュボード、ドアトリム、フロアマット、フロア内装材、天井内装材、防振材)を切り出しました。切り出し作業はなかなかの重労働です。とくにダッシュボードは電動のこぎりを駆使してようやく切断できるほど硬く、試料採取が難航しました。一連の試料を採取するためには、6~7人体制で1日10台程度が限度でしたので、複数回にわたり解体工場に通いました。

ASRの採取は別途日を改めて実施しました。ASRというのは、ELVから廃油・廃液やバッテリー、タイヤ、再利用できるパーツなどを取り外し、エアバッグを展開した後のいわば車の残骸を大型の破砕機で砕いたものです。ASRや家電シュレッダーダストのように複数のプラスチックやゴム、繊維や金属などが混合した廃棄物の場合、その組成を代表する均一な試料を採取・調製することはきわめて困難です。今回は実験ごとに数十台のELVを破砕し、選別工程で複数種類に分離されて発生した各種ASR試料から、採取用スコップで2~17 kg程度をサンプリングしました。

どの現場でも同じですが、試料採取に必要な消耗品や機材などの調査道具を事前に周到に準備することが調査の流れをよくするためには欠かせないことです。同様に、現場で採取試料をポリ袋やアルミ箔に包み、試料名や採取日などの情報を正確に記載し、研究所に持ち帰った後に混乱しないように整理整頓しながら順次梱包していくのも大変重要な作業です。

研究所にて

現場で採取した試料は研究所に届き次第、化学分析用の試料調製を始めます。対象物質にもよりますが、樹脂添加剤や重金属類を測定するのに必要な試料重量は0.1~数g程度と少量ですので、採取した試料をできるだけ細かく、均一にする必要があります。そうでないと、同じ試料を分析するたびに値が大きく変わってしまい信頼性の低いデータとなってしまうからです。車内ダストについては、目視で夾雑物(小石や金属、紙くずなど)を取り除いた後、0.25 mmの篩に掛けて篩下に集まった細かなダストを化学分析用としました。試料の均一性・代表性の観点および手に付着する粒子が概ね0.25 mm以下であることから、篩目のサイズを決めています。内装部材は、素材が単層構造であればそのまま、複層構造であればもっとも車室内側にあたる素材を剥ぎ取り、はさみで1 cm角程度に切断します。その後、切断した試料を数gずつ小分けにして凍結粉砕機という機械で小麦粉のような粉末状にしてから、化学分析に用います。ASRも部材と同様に凍結粉砕するのですが、数kgもある試料をはじめから微粉砕することは困難です。まずは各試料から金属類を選別し、はさみ等で5 cm角程度に切断後、採取した試料全量を破砕機で10 mm角程度以下に粗破砕をし、次いで5 mm程度以下まで破砕しました。次に、破砕した試料をシート上に薄く平らに延ばして細かく分割し、複数個所から試料を採取する縮分法を繰り返し、破砕試料を30~50 g程度まで減量させました。これを凍結粉砕機で粉末状にしたものを化学分析に用います。

イラスト均一な試料を準備できてから、ようやく化学分析に取り掛かり、目的物質を抽出・精製する複数過程を経て、最終的に機器分析で生データを取得し、それからデータ処理… 多くの人の手を借り、時間はかかりますが、新たな分析データの蓄積は楽しみで、毎回新鮮な気持ちで向き合っています。以上、廃棄物や環境媒体の化学分析を実施する者の日常の紹介でした。

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