循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - その他
2008年7月22日号

イェール大学産業エコロジーセンター滞在記(4)

橋本征二

 イェール大学では、2005年に持続可能性オフィスを設置し、持続可能なキャンパスづくりに向かって全学的な取り組みを活発化させています。今回は、こうした取り組みの中から、筆者が面白いと感じたいくつかのトピックをご紹介したいと思います。

 まず、大きな課題の1つが温室効果ガスの削減です。イェール大学では2020年に1990年比10%削減という目標を掲げています。この目標を宣言した2005年の排出量からは43%の削減が求められますので、15年という期間を考えるとなかなか野心的な目標です(図参照)。このため、様々な省エネ機器の導入やエネルギー効率の高い校舎の建設、再生可能エネルギーの導入や購入を進めるとともに、学生にも一定の努力を求めています。



Yale's Greenhouse Gas Reduction Strategy 2007より

 面白いのはエネルギー消費量の削減コンテストです。ほとんどの学部生は寮生活をしているのですが、その建物ごとにエネルギー消費量の大小を競い、例えば2007-08年学期にはその3年前の学期に比べて全体で9%程度の削減を達成しています。その結果はもちろんランキングとして公表されます(HP参照)。私は生活していないので分かりませんが、寮ごとの競争はさながらハリーポッターのような雰囲気なのかも知れません。

 なお、冒頭に紹介した目標を自力で達成することが困難となった場合には、カーボンオフセットも考えているようです。しかし、これについても排出削減分をどこか知らないところから買ってくるのではなく、大学自身でプロジェクトを起こし、それも大学近郊でのプロジェクトを考えているとのことで、できるだけ目に見える範囲で削減努力を行おうという姿勢に共感しました。

環環ナビゲータ−:たけ&りえ

 廃棄物に関しては、古紙や飲料容器のリサイクル、学生間での不要品交換などの取り組みが行われています。エネルギーとは少し異なって、廃棄物についてはリサイクルの取り組みに関する大学ランキングがあります(HP参照)。一人あたりリサイクル量や、一人あたりの一般廃棄物の排出量などで競争を行っており、2008年の競争にはいずれかの部門に計400の大学が参加したようです。イェール大学は、総合ランキングに参加した88大学中64位と、残念ながらふるいませんでした。

 また、面白い取り組みの一つに、大学の寮食堂や学生食堂などで地域の有機食材を積極的に使おうとしていることがあります(HP参照)。これはニューヘイブンのような大学町と地域との関係を考える上でも興味深い試みだと思います。

 持続可能性オフィスは、大学全体の様々な活動をコーディネートしているわけですが、重要視していることの一つが様々な活動を組織の通常の活動の中に組み込むということです。イェール大学は環境を一つのセールスポイントにしようとしているようですし、その意味ではこの数年でめざましい進展があったと担当者も言います。しかし、皮肉にも当初は活発だった学生の自主的活動が、最近減っているとのことでした。イェール大学が環境への取り組みを本格的に始めたきっかけは、学生グループがキャンパス地球サミットをホストし、また、学生が自ら作成した環境計画を大学に提出したことでした。環境への取り組みが大学の活動に組み込まれたという意味では、学生の自主的活動が減ったのも仕方のないことかも知れません。

 さて、持続可能性といったときには環境のことだけではありません。イェール大学では持続可能性指標というものを作って取り組みの進行管理を試みようとしています。その中には、文化に関する指標というものもあり、健康や教育、研究に関わる指標、また、財政や労働に関する指標が掲げられています。まだ具体的な計測を試みている段階とのことですが、持続可能性というものを大学がどのように捉えているかを反映したものでもあり、国立環境研究所のような研究組織がその持続可能性を考える際にも参考になるものだと思います。

 少し前のNew York Timesにも、アメリカの大学における環境への取り組みが面白おかしく紹介されていました。ご興味があればご覧下さい(HP参照)。

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