2008年5月26日号
リンとバイオ燃料蛯江美孝
リンは私たち人間にとって必須な物質ですが、通常の食事で十分に摂取できていますので、普段、気にする人はいないでしょう。生体内のリンは体重の1%程度を占めていて、エネルギー反応など行うATP(アデノシン三リン酸)、骨や歯を形成するリン酸カルシウムのほか、DNAの構成要素にもなっています。 リンは農業にとっても重要な物質で、植物の3大栄養素(窒素、リン、カリウム)のひとつです。近年、急激に注目を集めている資源作物は私たちが食べるためではなく、バイオエネルギーを生産するための作物です。 植物は太陽エネルギーを使って光合成により二酸化炭素を植物体に変換して成長しますので、このような植物を原料としたエネルギーは確かに再生可能なエネルギーではありますが、実際には植物を育てるには大量の水と多くの肥料が必要です。 生ごみや建設発生木材などの廃棄物系バイオマスからのエネルギー生産とは異なり、大豆やサトウキビ、トウモロコシなどを原料としたバイオディーゼルやバイオエタノール(自動車燃料)の生産については、リン肥料などの農業生産に必要な要素が無限に供給されるわけではないということにも留意する必要があります。 ところで、我が国のリン鉱石埋蔵量は残念ながら0トンです。しかも、石油などと同じように、世界のリン価格もリン資源の枯渇に伴って上昇していくはずです。もちろん、リン鉱石の採掘にかかるコストを大幅に削減可能な採掘技術が開発されれば、実質的なリン資源量は増加しますが、 リンの消費や採掘技術が現状のまま推移すると、90年程度で埋蔵量を使い切ってしまうといわれています。 このような状況を考えると、リン鉱石を持たない我が国にとって、排水や廃棄物に含まれるリンも貴重な資源として回収・利用していくことが必要であるといえます。 |
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