循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2007年7月17日号

リサイクルについての疑問と的確な情報提供の大切さ

森口祐一

 「リサイクルは本当に環境によいのか?」という疑問は、随分以前から寄せられてきました。容器包装リサイクル法(以下、容リ法)や家電リサイクル法が本格的に実施され、 一般市民の負担感が増す中、そうした疑問を抱くのは無理のないことでしょう。PETボトルを例に、リサイクル肯定派、否定派に分かれて討論する深夜のテレビ番組に出演する機会 がありましたので、その経験を通じて感じたことをご紹介します。

 まず、「リサイクル」という用語の使われ方が統一されていないことを認めておかなければなりません。街でよくみかける「リサイクルショップ」は、最近のキーワードである 3R(Reduce、Reuse、Recycle)に照らすと、Reuse(リユース=再使用)に相当します。PETボトルと同じ飲料容器の分野では、ガラスびんの繰り返し利用がリユースにあたります。 一方、PETボトルの台頭以前から行われてきたスチール缶やアルミ缶の回収、再生利用は狭い意味での「リサイクル=再生利用」の典型といえます。これらは一度使われたスチール、 アルミニウムをもう一度材料として利用しています。とくにアルミ缶については、その大部分が再びアルミ缶の材料として利用されています。スチール缶をスチール缶の原料とする ことも技術的には可能と聞いていますが、スチール缶に使われる鉄は、日本で使われる鉄全体からみれば1%にも満たないこともあり、鉄資源全体での有効利用という観点から、主 に建設用鋼材などの原料に使われています。

 では、PETボトルの場合、リサイクル、とは何を指すのでしょうか? また、PETボトルのリサイクル率○%、とはどのように測ればよいでしょうか? 1995年の容リ法制定当時は、 家庭ごみに占める容器包装の割合の増大、埋立処分場の不足など、自治体のごみ処理の負担をどう軽減するか、という点がとくに重要でした。このため、ごみ処理の立場からは、分 別や選別を経て、「リサイクルに向かった量」の把握も重要な関心事でした。PETボトルの場合、2005年度現在、自治体の分別収集により47.3%、店頭、自販機、鉄道施設などからの 回収を加えると、65.3%が回収されています(PETボトルリサイクル推進協議会の公表値)。これまで、さまざまな「リサイクル率」の数値が使われ、回収率をそのままリサイクル率 と呼ぶ事例もあります。回収率はリサイクルにとって重要な指標ですが、この数値を高めることはリサイクルを効果的に行うための入口にすぎず、ゴールではありません。

 容リ法のもとでは、特定事業者(容器包装を生産、利用する事業者)、消費者、自治体、再商品化事業者など、さまざまな主体の役割が細分化されています。このため、全体とし てリサイクルがどのように行われているのかが見えにくいことが課題です。そこを見えやすくする上で重要な役割を担っているのが、法律上、「指定法人」と呼ばれる機関で、具体的 には財団法人日本容器包装リサイクル協会(以下、容リ協)という公益法人です。

 容リ協のホームページでは、回収されたPETボトルがどのような用途にどれだけの数量が使われたかの内訳を公表しています。近年では、どの市町村が集めたPETボトルが、どこの 工場に運ばれて再商品化されるかの内訳も公表されています。

 しかし、こうした詳細な情報把握がなされているのは、自治体が容リ協に処理を委ねた場合であり、法律上、自治体は「独自処理」することを認められています。分別収集が拡大した90年代末には、再商品化施設の整備が間にあわず、折角分別収集したPETボトルが行き場を失う状況も報じられました。しかし当時と今とでは全く状況が異なります。最近、自治体が独自処理に走り がちなのは、分別収集したPETボトルが「売れる」からで、これは、中国の資源需要の増大が大きく影響していると見られています。自治体による分別収集以外の回収分についても、 そのかなりの割合が輸出されているとみられ、当研究センターでは、実際に中国の再生工場の現地調査も行っています。他国に輸出してリサイクルするような形態が望ましいかどうか については、十分に議論すべきことです。自治体が「独自処理」を選んだ場合、その行き先を追うことの責任は重いといえるでしょう。自治体以外の回収は、事業者による自主的取り組みと位置づけられます。

 容リ協に処理を委ねた場合の話に戻りましょう。ここで「再商品化」とは法律上の用語で、「製品又は製品の原材料として取引されうる状態にする」こと、平たくいうと、他の事 業者に「売れる」ようにすることを言います。容リ協を通じたルートには、自治体が集めたPETボトル約17万トンが引き渡され、そこから14.3万トンの「売れる」再商品化製品が生産 されています。その多くはそのまま使う製品ではなく、カーペット、衣類などの繊維製品、文房具などの原料に使われています。一方、再びPETボトルに戻す技術も開発され、実際に 使われています。その技術を持つメーカーの学会発表によれば、石油から新たにPETボトルを生産するよりも少ない石油資源でPETボトルを生産できるとされています。

 リサイクルに高いコストがかかることもよく論じられます。リサイクルに伴う資源の消費や環境への負荷は、ほぼコストに比例して大きいとするという説もありますが、同じ金額 の製品やサービスに対して、直接的、間接的にどれだけエネルギーが消費されたり、CO2が排出されたりするかは、製品やサービスの種類によって大きく異なります。その詳しいデー タは当研究所のホームページで公開しています。このデータをもとに計算してみると、鉄鋼や化学原料などの基礎素材の生産ではエネルギー関連のコストが数十%を占めますが、廃棄 物処理やリサイクルのコストに占めるエネルギー関連のコストは、例外はあるとしても、数%にすぎません。では、なぜリサイクルに高いコストがかかるのか、どうすればコストが下 げられる可能性があるのかを分析する必要があります。筆者は、コストを下げるための有力な手段の一つは、消費者が質の高い分別を行うことであると考えています。そのためには、 消費者とそれ以外の関係主体との間での信頼関係が大事です。リサイクルの効果やコストに関するさまざまな情報が入り乱れることで、そうした信頼関係が損なわれることがないように、的確な情報の共有がますます重要になっています。

 筆者は、1994年に発刊された「地球環境キーワード」(有斐閣双書)という本の中で、「リサイクルはどこまで有効か」という項目を分担執筆しました。そこでは、「何が何でも リサイクルで材料として再生しようとすれば、かえってエネルギー消費などの環境負荷が増大しかねない」ことを指摘していました。また、「現在の技術を前提とすれば、リサイクル により節減できる資源・エネルギー消費量は全体のごく一部にすぎず、リサイクルが資源浪費の免罪符とならぬように留意すべきである」とも書いていました。むろん考えは今も変わ っていませんし、これらは、リサイクルの効果に疑問を投げかける主張とも一致しています。リサイクルよりもリデュースやリユースを優先すべきことも忘れてはいけません。

 しかし、だからといってリサイクルは無意味で、全てやめてしまうことも不適切だと考えます。現在のリサイクルシステムが抱えている問題を共有し、より効果的で、負担感の小さ いリサイクルシステムを設計してくことが求められています。そのためには、的確な情報を共有することが大切です。当研究センターもさらにこの点に力を入れるため、リサイクルに 関わる素朴な疑問に答えるコーナーを本誌に新設することを検討中です。

 なお、当研究センターのホームページにおいて、「プラスチックと容器包装リサイクルデータ集」を公開していますが、過去の研究成果であるため、データの年次がやや古くなって います。リサイクルの状況は年々変化していることに注意してご覧下さい。

(下図は、7月16日深夜放映のテレビ番組での説明に用いたフリップボードの原図です)

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