2010年5月24日号
途上国のゴミ捨て場の改善に関する研究高畑恒志
皆さんが日常生活を通じて排出しているゴミや資源物は、お住まいの自治体のゴミ処理を担当する部署あるいはその許可を得た民間企業のゴミ収集車・資源回収車が集めに来てくれます。そして、焼却施設やリサイクルセンターに運ばれて、最終的に処理・回収しきれなかった残さを、廃棄物最終処分場(埋立地と呼ぶこともあります)に埋め立てて処分しています。このような仕組みは、日本にお住まいの皆さんには、当たり前のように思えるかもしれません。 しかし、海外の発展途上国の中には、日本のようなゴミ収集が行われていない地域も多く見られます。では、彼らがどのように処理しているかというと、例えば、集落の近くの空き地や湿地などに(国によっては、流れている川に)そのままゴミを捨てていたり、また、ゴミ収集がある地域でも、日本のように焼却処理をしているところは殆どありません。家庭等から排出された生ゴミ等が収集車(自動車ではなく手押し車の場合もあります)で運ばれ、ゴミ捨て場にそのまま捨てられているのです。 このようなゴミ捨て場はオープンダンプと呼ばれ、世界中で問題になっています。その何が問題なのでしょうか?第一に、ゴミがむき出しになっているので、風が吹くとその塵や軽いビニル片等が周りに飛び散ってしまいます。第二に、ハエやネズミなどの病害虫・害獣がゴミの中の餌をあさりに集まってきて、繁殖し、伝染病等を媒介する場合があります。第三に、生ゴミ等が分解する過程で発生する悪臭やメタンガス等がそのまま周囲に発散してしまいます。第四に雨水が内部に入って汚水となり、周辺の地下水や河川を汚染してしまいます。第五に、途上国では、家庭を尋ねてPETボトルやガラス瓶、金属くず等を回収している人たちがいますが、中にはゴミ捨て場にまで入ってくる人たちもいます。こうした有価物を回収すると、お金になるので、貧しい生活をしている人たちの中には、ゴミ捨て場にこれらを集めに来るのです(2010年5月24日号「ウェイスト・ピッカー」参照)。彼らは不衛生な環境の中で、有価物を回収するので、怪我をしたり病気になったりする例も少なくありません。 日本や欧米でも、かつては生ゴミをそのままゴミ捨て場に捨てていました。そして、同じような問題が生じたので、その解決策として衛生埋立(Sanitary Landfill)という方法を編み出したのです。衛生埋立では、第一に、ゴミを捨てた後、直ちに土を被せるようにしました(即日覆土:ソクジツフクドと言います)。これによって、ゴミや塵が飛び散ったり、虫や獣が大量に発生するのを防ぐ事ができ、悪臭も抑えることができるようになりました。第二に、地下に汚水がなるべく浸み込まないように、しゃ水工という水を通し難い層を設け、溜まった汚水を適切に排除するためのパイプ等を設置します。第三に、パイプなどで集めた汚水を適切に処理するようにしました。第四に、ゴミが一杯になり、埋立作業を完了した最終段階では、先ほどの即日覆土よりも厚く、ゴミの山(ゴミ層と言います)を保護するように土を盛り、敷き詰めるようにしました(最終覆土といいます)。このことにより、ゴミ層の中に浸み込む雨水の量を減らすことができ、結果として汚水量も減り周辺環境汚染の危険性を下げることができました。さらに、第五の工夫として、ゴミ層から発生するガスをパイプで集めて燃やすことにより悪臭成分などを除去したり、発電したりする方法などもとられています。また、病院や診療所から発生する使用済の注射針などのゴミ(医療系廃棄物といいます)やその他の有害性のあるゴミ(有害廃棄物といいます)を無害化処理できない貧しい地域では、一般の生活から発生するゴミと区別して、収集・処理したゴミを特別に区分した処分場に埋め立てることも行われています。 現在、日本も含めて、欧米各国や多くの国際機関が、途上国におけるゴミ捨て場を露天投棄から衛生埋立に改善するための技術的援助や、資金援助による衛生埋立処分地の建設などに取り組んでいます。それでも、なかなか衛生埋立は進んでいません。それは何故でしょうか?第一の理由は、途上国の人たちの貧困があります。露天投棄から衛生埋立にすることにより、処分にかかる経済的な負担は増大しますので、そのような負担ができないのです。第二に、途上国の人たちの関心がゴミ捨て場にまで及んでいない点があります。汚いゴミを目の前から取り除くところまでは、お金を支払っても、集められ捨てられたゴミの山にまで、お金を支払う考えが浮かばないのです。 しかし、途上国のゴミ捨て場を衛生埋立方式(埋立処分地)に変えていくことによって、ゴミ捨て場に由来する公衆衛生や環境に関する問題が軽減されることが期待されています。さらに、ゴミ捨て場の問題は、皆さんもご存知の気候変動問題にも関わっているのです。 先程、ゴミ捨て場で生ごみが分解する過程で、悪臭やメタンガス等が発生すると書きました。この時、発生するガス(埋立ガスといいます)には、メタンや二酸化炭素等の温室効果ガスが含まれています。メタンは二酸化炭素に比べて、約21倍も温室効果が高いことが知られています。そこで、世界中で、なるべく埋立地やゴミ捨て場からの温室効果ガスの放出量を少なくする取り組みがされています。また、現在のゴミ捨て場や埋立地だけでなく、過去に使われていたゴミ捨て場からも埋立ガスが発生するので、その対策が必要です。 それでは、どのような対策が考えられるのでしょうか?何より有効なのは、ゴミ捨て場や埋立処分地に捨てられるゴミの中の有機物を減らすことです。捨てられる有機物が減れば、分解されて発生する埋立ガスも減りますから当然ですね。ですから、欧米をはじめ、多くの国では、生活から排出されるゴミをそのまま埋立地に捨てることを止める方向に進んでいます。なお、日本では、防疫や土地が限られている等の理由から、焼却処理を進めてきたため、埋立地に捨てられる有機物の量はすでに非常に少なくなっています。最近は、途上国でも、有機物が多い食品残さ(残飯や野菜くず等)をなるべく分別して、堆肥等に利用するように方針を変えてきている例も見られます。 私たち、循環型社会・廃棄物研究センターでは、有機物がそのままゴミ捨て場に行かないようなゴミ処理の在り方を途上国の皆さんと一緒に考えるための仕組みや方法を研究しています。途上国では、ゴミの発生量等のデータもない場合が多く、そのような重要なデータの集め方や調査方法・項目などを確立する必要があります。そこで、どのようなゴミが発生し、どのような調査が行われているのかをアジア圏を中心に調べるとともに、どのような方法が適切なのか現地での適用可能性等を調べています。 また、ゴミ捨て場から発生する温室効果ガスを減らすために有効といわれている、準好気性埋立工法を用いて、メタンガスよりも温室効果が小さい二酸化炭素を主体とした埋立ガスになるように、ゴミ捨て場の改善手法を研究しています。また、評価の基礎となる、埋立地から発生するガス量の測定・推計方法を現地の研究者と一緒に研究・開発しています。 |
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