2006年11月5日号
廃棄物の研究って・・?木野修宏
国立環境研究所では、重点的に取り組む4つの研究プログラムの一つとして、今年度から「循環型社会研究プログラム」が新たにスタートしました。その研究遂行の中心的役割を担うのが、このオンラインマガジン"環環(Kann Kann)"の発行を担当する循環型社会・廃棄物研究センターです。 さて、廃棄物の研究、もっと平たく言うとゴミの研究と聞いて、皆さんは、どのようなイメージを持ちますか?もしかすると、ゴミを対象にした研究をしている人が世の中にいるなんて、考えたことも無いかもしれないですね。廃棄物は、"汚い"、 とか、何か事件が起きたきっかけで"危ない"、とかいう悪いイメージをもたれることもありますが、適切な方法と技術で管理すれば、安全に処理できますし、資源としても有効利用できます。そして、廃棄物を減らすことは、天然資源の抑制にもつながり、私たちの後の世代にも必要な資源を残せる持続可能な社会の実現のためにも重要です。私たちは、近い将来にこのような「循環型社会」を実現するため、技術の開発や研究を行っています。 実は、(私は研究者では無いのですが)周囲の研究者に話を聞くと、「ごみの研究はおもしろい!」、「廃棄物の研究はやればやるほどはまる!」という、とてもポジティブなコメントが返ってきます。とてもやりがいのある研究分野なんですね。 では、他の科学の分野と比べて、研究者にそう思わせるような特徴的な部分は何だろう、と勝手ながら想像すると、3つのことが浮かびました。@扱う問題がとても身近である、A研究の成果が社会に直接役立つことが実感できる、Bやってもやっても新たな問題が無くならない・・、他にもあるでしょうが、この3つについて見ていくことにしましょう。 まず、身近な問題ということですが、廃棄物を、全く出さないで生活できる人はいないですよね。統計によれば、平均すると、日本では一人あたり約1kgものごみを毎日出していることになります。(想像以上に多いですか?)そして、どのようなごみをどの程度出すのかは、私たちがどのような商品を選んで、買い、使い、そして捨てるのか、に起因します。 さらに、その回収や処理がもし適正に行われなければ、大気や土壌が汚染されるなど、私たちの身近な被害にも結びつきます。ということは、資源の消費を抑制しごみを出さない生活をするにはどうすればいいか、という問いかけは、どのようなライフスタイルや社会構造を私たちや社会が持つべきかという研究になりますし、大気汚染や地下水汚染を防止する廃棄物処理技術の研究は、 私たちの生活環境の保全のためになくてはならないのです。毎日、誰もが必ず関わるごみの問題だからこそ、誰もが安心してごみを捨てられるよう、廃棄物の研究が日夜続けられているのです。 2番目の社会に役立つという部分は、何があるでしょうか(図に示した廃棄物が関与する様々な場面も参考にご覧になってください。)。例えば、私たちの生活ごみは地方自治体が分別回収を行っていますが、何をリサイクル(再生利用)して何を燃やすか、リサイクルのため何種類に分別するかは、どのようにして決められたのでしょう。 ここ数年で、リサイクルされる製品が増えた気がしませんか(例えば、自動車やエアコンなどの家電製品)。 また、焼却炉や埋め立て施設(最終処分場)を建設するときの構造や日頃の運転管理、監視などは、決められた基準に沿って行われていると聞いたことはありませんか。このような、廃棄物の処理(リサイクルなども含みます)をどう行うべきかは、国の法律により制度が決められます。その制度のもとで、行政(環境省など国の省庁や地方自治体など)が、具体的な制度の設計や運用を行っています。 実は、このような法律の制定や改正、制度設計が議論される際に、廃棄物の研究成果が活かされているのです。技術開発により新たなリサイクル技術が確立されれば、リサイクルの対象となり、あるいは分別される項目が増えるかもしれません。新たな有害物質の発生がみつかれば、その処理方法が研究され、焼却炉の基準が更に厳しくなるかもしれません。逆に、社会からこれを解決してほしい、 という要請があれば、私たちの研究が科学的観点からその解決に応えていきます。このように、廃棄物の研究は、知的な好奇心や科学の発展・・、という側面よりも、私たちの生活や環境を守るために・・、という側面がとても大きいのです。 最後に、新たな問題が尽きないということを紹介します。従来の廃棄物研究は、発生する廃棄物にどう安全に対処すればいいか、ということが問題の中心でした。しかし、現在は、循環型社会とは何か、その実現にはどのような道筋をたどるべきか、という大きな問いに応えることが新たな課題です。 廃棄物の発生を回避する、そのためには利用する天然資源の量を抑制し、廃棄物が発生した場合もできるだけ再使用、再生利用する、という仕組みを作ることへの貢献が求められているのです。その他にも、製品(例えば、携帯電話)が高機能化、小型化すればするほど、製品の設計構造が複雑になり、微量で多種の化学物質や金属も含むようになりますので、廃製品をリサイクルし、 安全に処理するためには、それらに含まれる物質の資源性や有害性を確かめ、適正な処理の方法や仕組みを検討しなくてはいけません。また、技術についても、例えば、地球温暖化の対策のためには燃料電池の活用を中心とした水素社会の実現が重要ということになれば、従来のリサイクル技術を更に改良し、廃棄物から水素を取り出すような技術開発を目指すことになります。 さらに、経済が国際規模で動く現在では、廃棄物の移動や利用も、国内に留まらず、中国をはじめとする外国との関係の中でその循環を捉えなくてはいけません。国際的な環境汚染防止にも配慮しつつ、資源となる廃棄物の管理ネットワークを構築することが求められています。このように、廃棄物を巡る研究には、まだまだゴールが見えないのです。 では、具体的には、冒頭で紹介した「循環型社会研究プログラム」で、私たちは何を研究し、また、何が成果として期待できるのか・・、そのことについても触れたいのですが、残念ながら紙面が尽きてしまいました。次回以降の"環環(Kann Kann)"で担当の研究者が詳しく紹介していく予定です。これからの"環環(Kann Kann)"を是非楽しみにしていてください。 (循環型社会研究プログラムの概要については、HP(ホームページ)に掲載していますので、そちらを是非ご覧下さい。また、図は、当センターのこれまでの研究成果が、どのように社会で活用されたのかを簡単に示したものです。) 研究成果が社会・政策に活用された最近の例
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