2009年10月5日号
「無駄」と「環境」小林 潤
坂口安吾のエッセイ「日本文化私感」(「堕落論」1)に収められています)の中で、「美」に関する彼の考えが述べられているのをご存じでしょうか。その中で、彼は無駄を一切排した「機能美」といってもよいような物に、最大級の美の賛辞を贈っています。それが具体的にどの様な物かと言えば、一部に熱狂的なファンがいるとされる「工場萌え」2)に似ているというか、必要に応じて設置された配管や鋼鉄製の反応炉の集合体は、それ自身に「美しくするために加工した美しさが、一切なく」、まさに物を生み出す場として必要な物のみからなるところが美しいのだと感じていたようで、彼が求める文学そのものの美しさも、同じように「美しく見せるための一行があってもならぬ」、と考えていたようです。 無駄を一切排するという考えは、最近の省エネルギー・省資源の指向にも共通すると思います。家電に限らず使用時の消費エネルギーを出来るだけ少なくして、なおかつ同等以上の性能を発揮する製品が売れ筋商品として世に多く出回っていることは、省エネ促進という意味において望ましいことであると考えます。もちろん、使えるものを捨ててしまってでも省エネ製品を購入することに対する環境影響については、詳細に検討する必要があると思いますが(地球環境研究センターHPのココが知りたい温暖化「省エネ製品に買い替えるべき?」などを参照下さい)、ここではごく最近報道された2つの省エネ・省資源製品についてお話しします。 一つ目は、次世代照明として以前より注目されていました発光ダイオード(LED)照明3)です。1990年代に青色LEDが商品化されてから、信号機や電光掲示板、携帯電話のボタン照明・バックライト、自動車のテールランプなど広く一般に使用されてきていますが、ごく最近非常に低価格(といっても40 W電球で一個4,000円くらいと結構なお値段ですが)な白熱電球タイプのLED照明器具が販売されたようです。注目すべきはその製品寿命で、白熱電球の40倍、省エネ電球の先駆者である蛍光灯型電球の6倍程度の耐久性(約4万時間)を持っているそうです。長寿命商品は、廃棄物の減量化に直接つながりますので、その意味においても非常に有意義であると考えます。無論、使用時の電力消費量も白熱電球の約十分の一(蛍光灯型電球が今のところ一番効率が高いか、LEDと同じくらいです)とのことですし、省エネにも十分貢献すると思います。ただし、買い換えが進むことで白熱電球の主要代替製品である蛍光灯型電球までも廃棄されるようになりますと、蛍光灯に使用されている水銀の適正処理・処分が問題になる可能性もあるので、この点について十分な検討が必要であると考えます(環境リスク研究センターHPのりすく村Meiのひろば「化学のひろば/4-2.グローバル水銀プログラム」などを参照下さい)。 二つ目は、最近商品化された超節水洗濯用液体洗剤4)です。"超節水"の意味するところは、通常の全自動洗濯機では2回行う「すすぎ」の行程が1回で済むくらい、泡切れがよいことにあるそうです。すすぎの行程が減れば、その分節水出来るだけでなく、洗濯時間が短縮され結果的に省電力にもなります。さらに、生活排水の量も結果的に減ることになるので、下水処理等の負担も軽減することが出来ると考えられます。新しい化学物質に対する環境影響については商品化前に検討するようで、この洗剤に使用されている新しい界面活性剤の生分解特性についても既に評価がなされ、実験室レベルでは問題ないことをメーカーにおいて確認しているそうです。その一方、現状の下水処理場や浄化槽(本誌2007年3月5日号「排水を毎日きれいにする小さな装置」参照)などの設備でこの界面活性剤を十分に分解処理できるのかどうか、河川等に流出したときの環境に対する影響の有無(本誌2007年3月5日号「生活排水」参照)などについて検討する必要があります。 無駄のない、あるいは無駄を省くための商品や技術の普及は、地球環境にとっても人類社会にとっても非常に好ましいことだと思います。また、このような技術の発展は、新たな経済価値を創造し、経済対策と環境対策双方の一助になるかもしれません。「美しい自然環境」を未来に託すためにも、無駄のない美しさを備えた社会・資源循環型社会を構築することが大切であると思います。 <参考資料> |
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