活動レポート
2014年3月号

東南アジアの洪水廃棄物管理計画づくりプロジェクトがはじまりました

久保田 利恵子

アジアで増え続ける洪水

2011年の秋に発生したタイの大洪水は記憶に新しい洪水の一つではないでしょうか。日本企業が多く存在する工業団地で車が水没している光景をテレビや新聞などで見た方も多いことと思います。タイ以外にもバングラデシュ、パキスタン、フィリピン、インドネシア、中国など近年多くの場所で大規模洪水の被害が発生しています。洪水が増加している要因の一つと考えられるのが地球温暖化による影響です。豪雨や長雨が増えれば洪水のリスクも当然高まり、「世界にある29の主な河川のうち、黄河やメコン川など多くの河川で、現在は100年に1回の割合で起こる大洪水が、21世紀末には10~50年に1回に高まりそうだ」と東京大学の平林由希子准教授は発表しています。

アジアで洪水による被害のリスクが高まっているのは洪水の頻度増加だけが要因ではなく、主に都市部で人口が増え続けているからです。2012年にアジア開発銀行が行った調査は、2025年の沿岸部と内陸部に住む洪水の影響を受ける人口を推計しました。沿岸部、内陸部ともに2010年と比較して1.4倍の人々が洪水による影響を受け、その多くがアジア地域に住む人々だ、という予測をしています。人口の増加と共に、洪水の影響を受ける人も増えるのです。

中規模都市での洪水廃棄物対策案づくり

洪水が生活に及ぼす影響の一つに多量の廃棄物の発生があります。洪水廃棄物は速やかに処理されないと、復旧や復興の妨げとなるだけではなく、被災した都市の衛生状態を悪化させる恐れがあります。私たち資源循環・廃棄物研究センターでは洪水廃棄物が生活に与える影響や管理と対策について研究し、また研究の蓄積をアジアの国々に伝え、応用していく取り組みを始めています。2013年秋からは、「洪水に脆弱性を持つ東南アジア中規模都市を対象とした災害廃棄物管理計画策定」研究を開始しました。この研究プロジェクトでは、洪水が頻発するタイ・アユタヤ市とベトナム・フエ市を対象にします。災害発生前の廃棄物管理計画段階での対応策、発生時の収集、運搬から最終処分まで各段階における対策、洪水収束時の対応策など段階ごとに廃棄物の種類(食品ごみ、草木、プラスチック、重金属などの有害物質を含むごみ等)を考慮して安全に処理・リサイクルするための計画を両市の自治体に提案していきます。、2013年から2015年まで2年間のプロジェクト期間で、最終的には提案内容を各自治体で実施してもらうことを目標としています。

タイ・アユタヤ市で発生する洪水とベトナム・フエ市で発生する洪水は発生の仕方、水が都市部にとどまる時間などが違うだけでなく、誰がどのように、どこにごみを運搬し、処理するかという仕組み自体が違います。 さらに、収集車両や処理施設、埋立地等、直接廃棄物処理に関わるインフラだけでなく、道路やライフラインなど都市インフラの整備状況も洪水発生時の廃棄物処理に影響します。二つの都市の前提条件や洪水の発生パターンなどは違いますが、産業の構造や人口規模などの共通性から一般化できる洪水廃棄物管理対策も模索する予定です。こうして廃棄物管理に対するアジア都市の脆弱性、強靭性を正確に把握することが、洪水の際に災害廃棄物を適切に処理することを可能にする第一歩なのです。

さて、なぜこの研究ではバンコクやホーチミン市などの大都市を対象としないのか?と疑問に思う方もいるかもしれません。私たちがあえて中規模都市を選ぶのは、洪水など自然災害に対する計画が存在しておらず、また、大都市と比較して人材、予算の面での制約が大きいからです。大都市では、首都機能や経済活動の機能を停止させないため、国家政府が人員、予算を出動することもあります。中規模都市では、それぞれの自治体のキャパシティが災害時の廃棄物管理能力に直接現れるため、中規模都市の自治体の能力を向上させたいと考えたのです。

日本の災害経験をアジアへ

2011年に日本が経験した東日本大震災をはじめ、日本はこれまで幾度と災害を乗り越えてきました。日本とアジア諸国では廃棄物管理に関する法律、行政の仕組み、民業の熟度や市民の意識の違いもありますが、日本の経験を応用しながら伝えていくことは可能です。災害時は人命を救出することが第一優先ですが、災害廃棄物をきちんと処理することで、衛生環境の悪化による感染症リスクの増加や有害物質との接触を防ぐことも重要な課題の一つであることを忘れてはいけません。こうした考え方は災害が発生していない通常時から廃棄物管理に携わる人々の間で理解されていく必要があります。このような啓蒙活動もプロジェクトのひとつの目的と考え、研究活動を進めていく予定です。

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