循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2010年10月4日号

研究をどう評価するか

山根正慎

 学校では学生の勉強を試験で評価し、会社では社員の勤務を販売成績などで評価します。これらは、共通の指標で、明確な数値で表現されます。このため、比較的公平で分かりやすく、簡単に順位を付けることができます。それでは、研究者の行った研究はどのように評価されるのでしょうか。

 先に述べた「試験」や「販売成績」に該当するような分かりやすい指標として、「投稿論文数」や「知的財産取得数」などが挙げられます。「投稿論文数」は、文字どおり研究者が執筆し、雑誌(学会誌等)に投稿した論文の数です。ただし、単純に投稿した数だとその内容のレベルに関わらずカウントされるため、雑誌の編集者がその分野の専門家に論文の審査(査読)を依頼し、その結果を受けて掲載された「査読付論文数」を用いることが多くなっています。もう一方の「知的財産取得数」は、研究開発で新たに生まれた技術等を特許出願し、申請中もしくは登録された数となっています。

 しかし、研究によっては技術開発を行わず、特許等の出願が無いものや、長期間の観測・モニタリングを実施するため、投稿論文数が他より少なくなってしまう研究もあります。このような研究が「投稿論文数」「知的財産取得数」のみで評価されてしまうと、優れた研究であっても、それを正確に反映した評価ではなくなってしまいます。従って、「投稿論文数」「知的財産取得数」はあくまでも、研究を評価する一つの目安であり、それだけで評価を行うことはできません。

 それでは、もっと正確にかつ分かりやすく研究を正確に評価することはできないでしょうか? 政府の総合科学技術会議では、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成20年10月31日内閣総理大臣決定)をとりまとめています。この中では、「具体的な指標・数値による評価に務めるが、基礎研究等においては定量的な評価手法に過度に依存せず、定性的な評価手法を併用することが重要である。」(一部文章略)と記されています。つまり、先の「投稿論文数」や研究計画での目標値のような定量的な評価と、特に基礎研究では新たな発展の可能性等の定性的な評価を併用することを求めています。

 具体的には、同指針で研究評価の実施方法を参考として掲載しています。それによると、研究をいくつかのタイプに分類し、それぞれ以下のような評価基準を例示しています(一部文章を筆者が加筆・修正)。

「基礎研究」

  • [1]新たな知の創造に主眼を置き、国際的な水準から見た科学的価値を重視する
  • [2]当初計画と異なっていても科学的に卓越した成果があれば成果として認知する。
  • [3]今後の発展性を見極め、次につながる視点を重視する。

「プロジェクト研究(応用研究・開発研究)」

  • [1]今後の方向付けの検討に資することに主眼を置き、目的・目標の達成度合いを重視する。
  • [2]達成の成否及びその要因を分析し、研究開発の発展性を見込む視点を重視する。

 上記のとおり、事象の機構や機序等の解明等を行う「基礎研究」と具体の技術開発等を行う「プロジェクト研究」を比較すると分かりますが、「基礎研究」がどれだけ新たな科学的貢献があるかという定性的な点を重視しているのに対し、「プロジェクト研究」では、当初の目標(数値目標等)の達成具合というどちらかと言えば定量的な点を重視しています。結局、研究をなるべく正確に評価しようとすると、単一の基準で評価するのではなく、研究の特性に応じて、定性的・定量的な評価をうまく組み合わせて評価を行うことが必要になります。

 国立環境研究所でも同指針に基づいて、研究の評価を行っています。そのうち、最も重要なものは外部研究評価と呼ばれる評価です。研究所外の外部有識者によって構成された委員会で評価を行います。その結果については以下のウェブサイトでも公表されています。
http://www.nies.go.jp/kenkyu/gaibuhyoka/h22/h22.html#gaiyou

 今年4月に実施された外部研究評価では、過去4年間の研究成果を評価し、その結果は平成23年度からの5年間の研究所における中期計画に反映されることになっています。また、所内の研究評価の実施についても今年度中に見直しを行い、ウェブサイト等を通じて皆様に公表する予定となっています。

<もっと専門的に知りたい方は>
  1. 国の研究開発評価に関する大綱的指針(平成20年10月31日内閣総理大臣決定)
    http://www8.cao.go.jp/cstp/kenkyu/taikou081031.pdf
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