2010年4月5日号
計画の評価と見直し森口祐一
新しい年度の初めにあたっての近況を書かせていただくのも、これで4度目となります。2006年11月の創刊号のご挨拶で、「まずは定期的な刊行を軌道に載せることが最初の目標」としていましたが、おかげさまで、『環環』は本号が通刊74号となり、総集編も6号まで発行しました。日頃のご愛読に改めて御礼申し上げます。 『環環』が順調に号を重ねてきた3年半の間に、いわゆるリーマン・ショック以降の世界経済不況、わが国の政権交代など、私たちをとりまく情勢には、いくつもの大きな変化がありました。大きな変化により計画どおりには進まなくなった、という状況があらゆる場面で起きています。 日本のものづくりを象徴する数値として、鉄鋼生産量と自動車生産台数をみると、2008年から2009年にかけて、どちらも30%余りも減少しました。廃棄物処理の現場からは、産業廃棄物の量が大幅に減っているとの情報が伝わってきています。こうした中、国際公約に向けた削減が十分には進んでいなかった温室効果ガスの排出量は、2008年度には前年度に比べて約6%減少しました。残念ながら、これは主に経済情勢の変化の影響であり、計画どおりに対策が進んだからではありません。 3年前、年度初めの近況としては最初に本欄を執筆した際、「マニフェストとアカウンタビリティ」を取り上げていましたが(2007年4月2日号「マニフェストとアカウンタビリティ」参照)、政権交代で、「マニフェスト」はますますよく使われる言葉になりました。これまで、「右肩上がり」に象徴される従来のトレンド(傾向)が将来も続くとの見通しのもとに、さまざまな事業が計画され、実行されてきましたが、そうした事業の見直しが進められていることも、大きな変化の一つでしょう。複数の未来を想定して未来に備えるシナリオ・プランニングについて昨年秋、『環環』で紹介しましたが(2009年11月2日号「循環型社会ビジョン検討のためのシナリオ・プランニング」参照)、最近の社会の急激な変化は、こうした考え方の大切さを裏付けていると感じます。 私たちの研究活動においても、計画づくりは大切な過程です。国立環境研究所は、2001年度から独立行政法人という形態に変わり、それ以降、5年間を期間とする中期計画という計画に沿って、業務を進めてきました。今年度は2006〜2010年度の第2期中期計画の最後の年にあたり、次年度からの第3期の中期計画づくりの準備を進めています。 しかし、大切なのは、計画を作ることだけではなく、それを適切に実行し、それに見合った成果が得られているかを評価し、必要ならば計画を見直すことです。そうした一連の過程は、製品生産の品質管理などの分野では「PDCA(Plan Do Check Act)サイクル」と呼ばれています。見直しを次の計画に活かし、「好い循環」を実現していくことが大切です。国立環境研究所で行われている研究については、所外の有識者・専門家から構成される外部研究評価委員会によって、毎年、評価を受け、そこでの指摘をもとに、一部の研究プロジェクトの見直しを行ってきました。特に今年4月に行われる外部研究評価では、第2期の5年間の最終年度を迎えるにあたって、これまで4年間の成果について評価が行われるため、その準備に追われている、というのが目下の「近況」です。 また、国立環境研究所では、研究者個人についても、毎年度の初めに、「今年度はこのような計画で研究を進めます」という職務目標を設定するとともに、前年度に設定した目標がどれだけ達成されたかを、研究室長やセンター長との面接によって評価する仕組みがあります。ちなみに、センター長も理事長、理事との面接によって評価を受けます。また、当センターもポリシーステートメントを達成したかどうか、という観点を中心に、研究所を構成する1ユニットとしての評価を受けます。 さらに、研究計画や研究成果に対する評価は、外部の競争的研究資金についても日常的に行われています。管理的な職にある研究者は、評価される立場であるとともに、他者の研究を評価する立場に立つ機会も少なくありません。評価される、評価する、の両面でかなり多くの時間を割いている毎日ですが、適切な評価や見直しは、限られた大切な研究資金を有効に使い、社会に役立てていくための重要な仕事です。 今年度末で、当センターは設立以来10年を迎えます。節目の年として、研究成果をさらに積み重ねるとともに、『環環』を通じて、読者の皆様の関心に応える情報をよりタイムリーに提供するように努めていきたいと思います。 |
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