2009年4月6日号
環境問題の「現場」〜ごみ問題と地球温暖化問題との対比を交えて〜森口祐一
新しい年度を迎えました。おかげさまで、環環は2006年度半ばの創刊から数えて4つ目の年度に、そして当センターは設立以来、9年目に入ります。一方、国立環境研究所は先月、創立35周年を迎えました。国立公害研究所として設立された1974年3月15日から今日までの35年の歩みの間に、環境問題の様相が大きく変化してきたことは言うまでもありません。今回は、環境問題がどこで起きているのか、という視点から、地球温暖化問題との対比を交えて私たちの研究対象について考えてみます。 1年前の近況欄で、対外活動の状況を紹介しましたが、その後今日までの1年間を振り返ると、地球温暖化問題とごみやリサイクルとのかかわりについて、講演したり解説を書いたりする機会が増えました。昨年6月の国立環境研究所公開シンポジウムでは、「ごみ問題・3Rと温暖化のかかわり」というテーマで講演しました。これを含む5つの講演を収録したDVDビデオの頒布や動画の提供も始まっていますので、是非ご覧下さい。 昨今、大きな関心を集めている地球温暖化問題と、私たちの研究センターが主な研究対象としているごみ問題との間には、多くの共通点、接点があります。これらはともに資源やエネルギーを大量に消費する、今日の便利で豊かなライフスタイルと関わっています。それゆえ、日常生活の中でのこれらの問題への対策の取組も盛んに呼びかけられるようになっています。 しかし、ごみ問題は私たちの目の前にある、日々実感しやすい問題であるのに対し、地球温暖化は、地球全体の長期にわたる問題であり、実感しにくい、という大きな相違点があります。また、ごみは目に見えるのに対し、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素などの温室効果ガスは、目に見えず、それゆえその量を実感することは難しいでしょう。二酸化炭素の排出量を1人1日1kg減らそう、という国民運動が展開されてきていますが、これは日本全体の二酸化炭素排出量の4%程度、家庭部門のエネルギー消費に伴う排出量の4分の1程度に相当します。一方、家庭ごみの量は、1人1日1kgを下回っています。つまり、重さで比べると、実はごみよりもはるかに多くの量の二酸化炭素を日々大気中に「捨てて」いるのです。そこで、食品などの商品を作るまでにどれだけの二酸化炭素が排出されたかを表示するカーボン・フットプリント(2008年9月8日号参照)など、温室効果ガス排出の「見える化」も進められています。 環境問題に関する調査や研究の萌芽期、発展期に尽くされた方々は、現場に出向き、五感を駆使することの大切さを説いてこられました。大気汚染や騒音などの公害問題は、しばしば被害の激甚な地名とともに取り上げられてきました。廃棄物の不法投棄のような問題においても、明確な「現場」があります。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」という、刑事ドラマの主人公の台詞がありますが、環境問題も同じです。研究室の机やコンピュータの画面に向かっているだけでは、実社会で起きている現実はなかなか見えません。 しかし、地球温暖化のような問題では、この「現場」に接することができない、という難しさがあります。むろん、発電所や自動車が二酸化炭素を排出している事実を見ることはできますし、大気中の二酸化炭素濃度を測ることもできます。暖冬や猛暑などの気象の変化を感じることもできるでしょう。しかし、これらが因果関係でつながっているかどうかを現場で確かめることはほぼ不可能であり、コンピュータによるシミュレーションに頼ることになります。地球温暖化が人為的なものかどうかについて、今も異論があるのはこのためもあります。 それと比べれば私たちの研究対象であるごみ問題は、現場を重視することで、多くのことを解明することができます。家電製品の「見えないフロー」(2007年2月19日号参照)の問題に見られるように、使用済み製品の国際流通などによって、現場が見えにくくなっている状況があり、現場の重要性がますます高まっていると言えます。 ここ数年を振り返ってみると、残念ながら、筆者自身は会議室で過ごす時間がますます長くなり、現場に出向く機会が減ってきてしまいました。また、ごみ問題の「現場」に精通した経験豊富な研究者が定年を迎え、退職されつつあることも悩みの種です。次世代を担う若手研究者に現場の大切さを改めて伝えるとともに、自分自身もできる限り現場に足を運ぶことに時間を割く、ということを年度初の抱負の一つとしたいと思います。 |
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