2011年2月21日号
ベトナムにおける有価物回収の実態河井紘輔
国立環境研究所では、東南アジアにおける都市ごみの不適切な処理がもたらす環境影響を最小限に抑えるためには、どのようなシステムが必要なのかを提案する研究を実施しています。そのうえで、それぞれの国の社会・経済的な背景と現状を理解することは重要です。東南アジアの国々の都市ごみ処理は、安価な埋立処分に頼っていて、技術的にはまだまだ遅れている一方で、日本よりも高いレベルで無駄なくモノを回収・リサイクルしている実態もあります。それはどのようにして成り立っているのでしょうか。ここでは、これまでのベトナムを事例にした研究結果をもとに、都市ごみの減量化、そしてリサイクルに大きく貢献している「ジャンクバイヤー」と呼ばれる人たちに焦点を当て、その活動実態や担っている役割を考察することで、なぜ高いレベルのリサイクルが成り立っているのか明らかにしたいと思います。 ベトナムでは、使用済みの紙・プラスチック・ガラス・金属などの多くはごみになる前に売れるものとして、有価で回収されます(これらを「有価物」と呼びます)。都市部では、ジャンクバイヤーが街中をくまなく巡り、家庭などから有価物を買って回収します(図1)。そうなると家庭内でも、売れる「有価物」と売れない「その他のごみ」を分別する経済的な動機が働く訳です。売れるものは分別して保管しておき、その他のごみは廃棄するという、日本の分別とは異なるシステムが確立しています。廃棄されるごみは、自治体から委託された都市環境公社によって回収されます。 ここで、ジャンクバイヤーについてもう少し詳しく説明しましょう。ジャンクバイヤーとは、家庭などから有価物を買って回収する人を指します。一方、道路などから有価物を拾って回収する人を「ウェイストピッカー」と呼んでいます(かつては「スカベンジャー」と呼ばれることもありましたが、差別的表現ということで最近では使われなくなっています)。ベトナムの首都ハノイの街中で有価物を回収する人のほとんどはウェイストピッカーではなく、ジャンクバイヤーです。ジャンクバイヤーになるための許可や免許は一切不要で、誰でも、いつでもジャンクバイヤーとして活動を始めることが可能です。ハノイで活動するジャンクバイヤーの多くは女性で、ハノイから南東約100 kmに位置するナムディン省の出身者が多いのが特徴です。ナムディン省は典型的な農業地域で、農閑期になると田舎に家族を置いて、単身ハノイへ出稼ぎに来ます。 ハノイの中心9地区で270人のジャンクバイヤーにヒアリング調査した結果、ジャンクバイヤーが1人1日当たりに回収する有価物の量は平均40 kgでした(ただし、ガラス類は本数で調査しているため除きます)。そのうち、紙類の回収量が最も多く、平均21.7 kg/人/日でした。ジャンクバイヤーによって回収された紙類は、64.7%(重量比ベース)が家庭から回収されたことがわかりました(図2)。また、紙類だけでなくその他の有価物に関しても家庭から回収される割合が最も多く、ジャンクバイヤーのお得意様は家庭であると言えます。 ジャンクバイヤーの平均月収は日本円にするとおよそ1万円程度で、ハノイなど都市部の一般的なベトナム人の平均月収(月1〜2万円程度)と比べても遜色なく、農業での収入に比べるとはるかに高いようです 以上をまとめると、高いレベルのリサイクルが成り立っている理由としては、ベトナム都市部の急激な経済発展による生活水準の高まりとともに、有価物の量が年々増加していること、それらの多くが家庭などの排出源で他のごみとは分別され保管されていることが挙げられます。また、ジャンクバイヤーが回収する有価物は相当な量で、それによって得られる収入は、ジャンクバイヤーにとって大変魅力的であるためにジャンクバイヤーの活動が活発であることも理由として考えられます。 しかし、生活水準の高まりによって、逆に有価物を分別・保管する手間や労力を惜しむようになり、経済的な動機がもはや働かなくなっている家庭もあります。また、経済発展に伴い、有価物回収による収入に比べて高くて魅力的な仕事が他に見つかれば、ジャンクバイヤーを辞める人もいるかも知れません。はたして5年後、10年後もジャンクバイヤーによって有価物の回収が活発に行われているのかはわかりません。経済状態の変化とともに有価物回収のシステムがどう変化するのか、注意深く観察すると同時に、どのような有価物回収システムに移行していけばよいのかを考える必要があります。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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