循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2011年1月11日号

電子基板に含まれるレアメタル等を測定するために必要な金属の溶かし方

川口光夫

 最近レアメタルといわれる金属の輸入ができなくなったという新聞記事がありました。このレアメタルといわれる金属は、家電製品に含まれる電子基板(以下、基板)中のさまざまな電子部品にごく微量使われていますが、これにより家電製品の性能を飛躍的に上げることに貢献しています。また、金(Au)や銀(Ag)等の貴金属も基板に使われていることから、壊れたり、古くなって廃棄される家電製品は、レアメタルや貴金属の貴重な鉱石ということができます。

 経産省や環境省、各自治体では、これらの貴重な金属のリサイクルを目的として、使用済み小型家電の回収について検討を始めています。このため、基板中にどの程度レアメタルや貴金属が使われているのかを知ることが重要になってきました。

 基板には様々な部品が大量に使われていて、その部品毎に使われている金属も、金属が使われる目的も異なっています。このため、各金属が基板の中にどの程度あるかを調べる方法としては、酸を使って電子基板から直接金属を溶かし出して分析することが考えられます。

 酸というと塩酸、硝酸、硫酸などいろいろありますが、なんといっても金やプラチナを溶かせる王水(塩酸と硝酸を混合した酸)が有名で、まず基板中の金属を溶かすために王水を使うことにしました。王水は金属ならすべて溶かせそうですが、いくつか溶かすことが難しい金属があります。基板に大量にある接点に使われるAgは、いったんは溶けますが、王水中の塩酸と反応して塩化銀(AgCl)として析出してしまいますし、コンデンサーに使われているタンタル(Ta)は王水には溶けないと成書(この分野の標準的な教科書)1)に記されています。しかし、様々な方法を試した結果、基板中のAgやTaなどの王水に溶けにくい金属を溶かして分析する方法がわかりました。以下にその方法を紹介いたします。


1)Agの溶かし方

 高校の教科書にAgは硝酸に溶けるとあります。まず硝酸で溶解し、溶け残った残渣をもう一度王水で溶解してみました。図1に示すように、基板Bは1回目の硝酸溶解でAgが溶け出しましたが、基板Aでは2回目の王水溶解のほうが1回目の硝酸溶解より高濃度に溶けました。硝酸でAgを溶かすことのできない基板があるということは、硝酸を安心して使うことはできないということですね。

図1 基板毎のAgの溶出挙動

 そこで、Agを溶かせる様々な酸やアルカリを試してみました。アンモニア、酒石酸、6モル塩酸です。選択した理由は、Agと錯体(Agの回りを分子やイオンで取り囲み液体に溶けやすくする)を形成して安定して溶かすことができるからです。例えば、6モル塩酸の場合、AgClはCl-の高濃度溶液中では[AgCl2]-として溶解し析出しません。図2にその結果を示します。どの方法でもAgを溶かすことができますが、取り扱いやすいこと(アンモニアは臭いが強烈)、すべての基板に対応できること(酒石酸は溶かせない基板あり)、なるべく高濃度に溶かせること等を考慮して、6モル塩酸を選びました。

 基板中のAgの溶解に硝酸が使えなかった理由は、基板に使われているプラスチックを燃えにくくする材料(臭素系難燃材)中に含まれる臭素(Br)が硝酸と反応して溶け出し、溶け出したAgと反応して臭化銀(AgBr)として析出したためです。

図2 酸・アンモニアによるAgの溶出挙動


2)Taその他王水に溶けない金属の溶かし方

 王水に溶けない金属にはTa、ニオブ(Nb)がありますが、その他にタングステン(W)、クロム(Cr)、スズ(Sn)などが王水に溶けにくい金属として成書1)に記載されています。家電製品の基板中には、コンデンサーに使われているTaのほかに、ハンダの材料としてSn、プリンターやモニターと接続する部品の構造材であるステンレススチール(SUS)の材料であるCrが、主に使われています。

表1 王水に溶けにくい金属の溶出挙動(mg/kg)

 これらの金属の溶解には、フッ化水素酸溶解やアルカリ融解(アルカリ性の溶融剤と一緒に900度で溶解し硝酸に溶けやすい塩にする方法)が提案されています。表1に基板Cの、フッ化水素酸、王水、王水+残渣のアルカリ融解結果を示します。成書1)の記載通りTaは王水では溶解できませんでした。アルカリ融解法でもあまり溶解できず、フッ化水素酸が必要なことがわかりました。Ta同様、Nb、Wも王水やアルカリ融解よりフッ化水素酸溶解が適しています。ネオジム(Nd)、チタン(Ti)、Crはアルカリ融解・フッ化水素酸溶解どちらでも溶解できます。


 以上まとめると、基板の中にある金属の大部分は王水で溶かし出すことができますが、Agは6モル塩酸、Ta、Nb、Wはフッ化水素酸、Nd、Ti、Crはフッ化水素酸またはアルカリ融解が必要であるとわかりました。

 これらの結果を使って、パソコン1台中にどの金属がどの程度含まれているかを分析し評価しました。

 その結果を一部紹介いたしますと、1999年製ノートPC (重量3kg)の中には、多いほうから鉄(Fe)530g、アルミニウム(Al)270g、銅(Cu)140g、ニッケル(Ni)38g、Cr 16g、亜鉛(Zn)15g、ほかに貴金属としてAg 970mg、Au 180mg、パラジウム(Pd)42mg、レアメタルとしてNd 1900mg、Ta 1800mg、等が使われています。

 どの金属も回収して適切に処理すれば再利用が可能ですから、貴重な資源を含む家電製品が廃棄されて最終処分場で朽ち果てるのはもったいないですね。

<参考資料>
  1. 社団法人日本分析化学会編:改訂五版 分析化学便覧、丸善株式会社、2001
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 白波瀬朋子、貴田晶子:詳細解体による廃パソコン中の金属含有量の推定、廃棄物資源循環学会論文誌、20(4)、pp.217-230、2009
  2. 川口光夫、貴田晶子:廃電気電子製品(ノートPC、プリンター、TV)の基板中の金属量調査、第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集、pp.175-176、2009
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