2010年12月20日号
バイオガス化技術はエネルギー生産プロセスかエネルギー消費プロセスか?小林拓朗
バイオガス化技術とは、嫌気性微生物群を用いて、有機性廃棄物を減量化するとともに、バイオメタン、あるいはバイオ水素へと変換する技術です。バイオメタン化技術(メタン発酵)は、わが国において、汚泥・生ごみ等の家庭系廃棄物、家畜ふん尿等の畜産系廃棄物、焼酎カスや大豆加工残さ等の食品産業系廃棄物などに対して適用されてきました。さらにこれまで適用が難しかった種類の廃棄物にその適用を拡大するための技術開発もすすんでいます。しかし、メタンガス回収効率は廃棄物の種類によって大きく異なります。また、メタン発酵プラントを運転するためにはエネルギーを消費します。従って、エネルギーの生産と消費のバランスによっては、メタン発酵プロセスが全体としてエネルギー消費型になってしまうこともあり得ます。では、新たなメタン発酵事業の実現性を判断するにはどうしたらよいでしょうか?この記事では、エネルギー収支の観点からメタン発酵プロセスの実現性を考えてみます。 エネルギー収支の基本的考え方ここでは、廃棄物受入槽、反応タンク、回収バイオガスを利用する発電機、および残さを処理する排水処理施設から構成されるプロセスを想定します(図1)。メタン発酵技術では、活躍する微生物群が最も活発に活動できるように、温度を制御します。一般に35℃付近の中温域と55℃付近の高温域が適用されます。従って、反応タンクはエネルギーを消費して加温される必要があります。また、排水処理施設も通常エネルギーを消費するプロセスです。電力を消費して曝気を行い、栄養塩等を除去します。我が国で最も一般的なバイオガス利用法は、発電機を利用したコジェネレーションです(文献1)。回収されたエネルギーは、まず反応タンクの加温やプラント内電力に使用されます。つまり、プロセス全体でのエネルギー収支をプラスにするためには、バイオガスから回収されるエネルギー量が少なくとも反応タンク加温と排水処理に要する電力のエネルギー量を上回ることが必要であることがわかります。 LÜbkenら(文献2)が報告しているバイオ発酵プロセスのエネルギー収支モデルを改変して、想定されたプロセスのエネルギー収支を以下のように表現します。 (正味の生産熱量)=(バイオガス変換熱量)-(反応タンクからの放散熱量)-(原料の加温熱量) [kWh/d] (正味の生産電力量)=(バイオガス発電量)-(発酵液中のBOD除去に必要な電力量)-(発酵液中の窒素除去に必要な電力量) [kWh/d] 熱量に関してはこの他に微生物反応熱量を、電力量に関してはこの他に原料投入ポンプ動力や撹拌機動力を含める場合がありますが、それらは上式に挙げた要素と比較して十分小さいことが報告されています(文献2)ので、ここでは考慮しないことにします。 メタン発酵における代表的な処理原料として生ごみが挙げられます。上に示したエネルギー収支を定式化し、生ごみのメタン発酵プロセスの実験結果(文献3, 4)に対して適用した例を以下に示します。 原料の固形物濃度の影響図2は、異なる固形物濃度(TS)の原料生ごみをメタン発酵させた場合のエネルギー収支の比較です。ここで、全てのプロセスは原料滞留時間(HRT)15日、発酵温度55℃、処理規模10 m3/dと仮定しています。熱、電力の両方で、TSに比例してエネルギー生産が増大する関係が得られました。つまり、この結果は原料のTSが高い方が、プロセスのエネルギー生産効率が高くなることを意味しています。原料のTSが高いと、含有される有機物濃度も高いので、原料単位体積あたりのメタンガス生成量が高くなります。熱収支をプラスにする(実質的な熱生産)にはTS約6%以上の原料を使用する必要があることが示されました。 原料の滞留時間の影響図3は、異なる滞留時間(HRT)で原料生ごみをメタン発酵させた場合のエネルギー収支の比較です。ここで、全てのプロセスは原料TS濃度10%、発酵温度55℃、処理規模10 m3/dであると仮定しています。HRTは電力収支には影響せず、熱生産量との間に負の比例関係があります。同じ処理規模を仮定した場合、HRTが短いことは反応タンク容積が小さいことを意味していますので、HRTが長いと加温熱量がより多く必要になることは納得できるでしょう。図から、HRTを約26日よりも短縮しなければ熱収支がプラスにならないことがわかります。このように、エネルギー収支を計算することでメタン発酵プロセスの実現性と適切な操作条件を予測することができます。また、研究においても、こうしたプロセストータルでのエネルギー収支を向上させるような技術開発を目指しています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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