2009年6月22日号
サービスの脱物質化と低炭素社会南斉規介
最近、研究所のあるつくば市でもレジ袋の無料配布をしないスーパーが増えました。「始まった当初は不便さを感じることもあったけど、今ではすっかり慣れてしまった」という方も多いのではないでしょうか。家電量販店の中には、必要な時以外は展示しているテレビ等の電源を落としているお店も見られます。このような小売店の新しい取り組みには、お客さんである消費者の理解と協力が必要ですが、資源やエネルギーを節約しながらも消費者を満足させるお店を作ることは、益々重要な課題の一つになると思われます。 上記のような小売店がある一方で、近年、都市部の高層ビルには高級店が並び、郊外には大型ショッピングセンターや巨大なモールがオープンしています。このような小売店は、単に品物を販売するだけでなく、華やかさや楽しさといったレジャー的な要素も提供してくれますが、その影で多くのモノやエネルギーを費やしている可能性もあります。また最近は、いろいろな新しい形のサービスを提供するお店もあり、小売店に限らずサービス業が全般的に多様化と充実化の傾向にあるのかも知れません。 そこで、産業連関表という統計データを用いて、サービス業のモノやエネルギーの消費と二酸化炭素排出との関係を調べてみました。産業連関表は農産品から工業製品、サービスにいたるまで日本の全ての商品を部門として定め、各商品を生産する部門間の各商品の年間購入額を掲載しています。商品の種類はいろいろありますが、最も単純化すると「物質的な商品(物品)」と「サービス商品」の二つに分けられます(なお、資源や電力などのエネルギー、上水下水はに区分します)。 「サービス商品」部門の年間購入額の内訳を見ると、物質的な商品の割合は、1990年には平均で10.6%でした。その後、2000年までに約1割増加して、11.6%となりました。個別にみると、104個中の70個のサービス商品が、それを提供するために必要な物質的な商品の割合が20%以上も上昇しており、サービス商品といえどもモノやエネルギーの消費と無関係でないことが分かります。 次に、サービス商品の提供に物質的な商品が使われるということが、私たち消費者の出す二酸化炭素排出量にどのような影響を与えているかを分析します。消費者が原因となる二酸化炭素には二種類あります。一つは、自動車で使うガソリン、調理やお風呂で使うガス、暖房に使う灯油など、消費者が直接燃料を燃やして出す二酸化炭素です。もう一つは、消費者の目の前で発生するのではなく、購入した商品が生産される過程で排出された二酸化炭素であり、ここでは「誘発排出量」と呼ぶことにします。サービス商品が物質的な商品を使うことは、この誘発排出量に影響を与えます。 物質的な商品とサービス商品の関係として、次の四つの関係を考えることができます。
これらの関係が、消費者の誘発排出量にどのような影響を与えるかを数値で確認するため、誘発排出量を次のように5つの値の掛け算で表現します。 誘発排出量(t-CO2)=S×q11×q12×q21×q22 ここで、Sは消費者が購入した物質的な商品を生産する工場やサービス商品を提供する店舗から直接排出される二酸化炭素量(t-CO2)です。工場や店舗は商品の生産に物質的な商品やサービス商品を使用するので、それらを作る過程でも二酸化炭素が発生するため、出発点の排出量Sは、4つの値(q11、q12、q21、q22)が掛け算されて徐々に大きくなって行きます。q11は→の関係によって二酸化炭素が排出される倍率、q12は→の関係によって排出される倍率、q21は→の関係によって排出される倍率、q22は→の関係によって排出される倍率を示します。 図は、1990年、1995年、2000年の各qの値を示したものです。q11を見ると、1990年は1.51でしたので、排出量を1.51倍にする、つまり51%分の排出量を加算させました。しかし、2000年には1.40と40%に減少しており、→の関係、物質的な商品の生産に物質的な商品を使用することが消費者の二酸化炭素排出に与える影響は、小さくなったことが分かります。51%から40%への減少ですから、約2割も低下しました。 しかし、気になる→の関係、サービス商品の生産に物質的な商品を使用することの影響は大きくなっています。1990年のq12は1.28で28%分の排出量を加算していましたが、2000年には1.31と31%分を加算する関係となりました。この変化は約1割の倍率増加であり、先の→の関係とは明らかに逆の動きをしていることが判明しました。 家計の総支出に占めるサービス商品の割合は1990年から2000年にかけて70%から74%と上がっており、これからもサービス商品への需要は大きくなることは十分予想されます。日本が低炭素な社会へ向かうには、資源やエネルギーを掛けずにサービスを充実すること、つまり、「サービスの脱物質化」がますます重要になると考えられます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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