循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年5月26日号

排水からリン資源を回収するシステム

近藤貴志

 私たち日本人は、食料・エネルギー等の多くを外国から輸入して生活をしています。昨今の食品問題等もあって、輸入に依存する生活からの脱却を目指す動きも高まってきていますし、食料自給率の向上、地産地消といったことをテレビ・雑誌で目にする機会が多くなっています。 日本の食料自給率は約40%であり、先進諸外国に比べて低いのが現状です。しかし、この食料自給率は、日本国内の食料生産量から求められていて、肥料に関しては考慮されていません。つまり、実際は肥料成分の多くを輸入に依存しているので、食料に関する我が国の自立度合いはさらに低いと言えます。

 さて、3大肥料(窒素、リン、カリウム)の中のひとつであるリンは、農業のみならず産業等においても重要な資源ですが、枯渇が懸念されている資源であり、人口の増加や資源作物(食用ではなくエネルギー源や製品材料とすることを主目的に栽培される植物)の増産等の状況を踏まえると極めて重要な物質です。 日本は、全てのリンを輸入に依存していますが、例えば、世界各国に対してリン鉱石の安定供給を続けてきたアメリカは、資源保護を理由に1996年以降事実上輸出を禁止しています。

 このように、資源として重要なリンですが、湖沼や内湾などの水質の汚れの原因という面も持っています。湖沼・内湾等の閉鎖性水域での富栄養化は未だ顕在化していて、水環境の再生が大きな課題となっています。これを解決するには、生活排水からのリンの排出削減等の高度処理化が重要な位置づけにあります。

 日本におけるリンの収支をみると、1998年には、飼料や食料、水産物、石油・石炭などの輸入品目に含まれるリンも合わせて、68.3万トンのリンを輸入しています。このうち、13.8万トンを河川等の水域へ排出しています。この量はリン鉱石、リン酸アンモニウム(リン安)の輸入量23.4万トンの約60%に相当します。 また、生活排水として排出されるリン量(1人1日1グラム)は、人口1億2千6百万人では年間4.38万トンとなり、リン鉱石、リン安の輸入リン量の約20%に相当します。

 そこで私たちは、吸着脱リン法という方法を使って、生活排水から汚濁物質であるリンを除去するだけではなく、資源として循環させる技術の開発を目的として研究を行っています。吸着脱リン法は、イオン交換によるリン吸着性能を有するジルコニウム系吸着剤で、下水処理場、浄化槽、し尿処理場、工場排水等の処理水に含まれる溶存性のリンを吸着除去する方法です。 吸着されたリンはアルカリ溶液を用いて吸着剤から脱離させることができ、リン脱離後の吸着剤は再利用できます。また、リンを脱離した液中には高濃度のリンが含まれており、この脱離液からリンを回収することができます。 そこで、個別の世帯に設けられる分散型の排水処理施設である浄化槽に対しては、浄化槽に吸着脱リン装置を設置し、定期的に吸着剤を回収し、再生・脱離工程をステーションにおいて集約的に行うシステム(オフサイト型システム)、集中型の下水処理場等においては、吸着剤の再生・リンの脱離工程をその場で行うシステム(オンサイト型システム)の両システムを想定したシステム開発をしています。

 例えば、オフサイト型システムでは、生活排水中のリンに対する除去特性を調査するため、30基の家庭用浄化槽(有機物・窒素除去)の後ろに吸着脱リン装置を設置し、浄化槽の処理水中のリン濃度の測定を行いました。その結果、吸着脱リン装置を設置することで、リンを効果的に除去できることがわかりました。 また、使用した吸着剤から水酸化ナトリウム溶液でリンを脱離させた後、溶液を濃縮して、リン酸ナトリウムを回収することができています。この回収されたリンを肥料として使用しても、発芽および生育への支障は認められず、生活排水から回収したリンを肥料として有効活用可能であることも確認できています。

 また、オンサイト型システムでは、国立環境研究所バイオ・エコエンジニアリング研究施設にリン吸着塔3基を設置して、リン吸着・リン脱離・吸着剤再生を切り替えて運転可能なシステムを構築しました。このシステムを利用して、畜産排水や産業排水等を想定したリンの除去・回収資源化試験を行いました。 その結果、排水のリン濃度に合わせて、吸着塔を連結させることで、吸着剤の性能を最大限に活用する運転方法を確立しました。

 このように吸着脱リン法を用いて生活排水・産業排水等からリンを除去・回収資源化する技術は確立されつつあります。 また、私たちは、この吸着脱リン法を様々な排水に適用する技術の開発や、鉄電極を使って溶出した鉄とリンを結合させてリンを除去する鉄電解脱リン法、リンを蓄積する微生物を利用してリンを除去する生物脱リン法などのリンを除去するシステムからリンを回収する技術の開発も行っています。

関連記事:地域を単位とした水・物質循環システムの再構築を(2007年3月19日号)

環境低負荷,資源循環型の社会構築のためのオンサイト・オフサイト方式によるリン除去・資源化システム
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 手塚和彦ら:わが国における窒素・リンの循環とその収支、用水と廃水、44(7)、pp.13-20、2002.
  2. 蛯江美孝ら:リン回収技術の現状と将来展望、再生と利用、30(117)、pp.6-10、2007.
  3. 近藤貴志ら:On-Site型リン除去・回収プロセスを用いたリン資源回収システムの最適化、第42回日本水環境学会年会講演集、p.88、2008.
関連研究 中核研究3
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー