循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2009年9月7日号

新たな化審法第一種特定化学物質を含有した廃棄物の適正処理

渡部真文

 皆さんは、化審法(化学物質審査規制法)をご存知でしょうか? 2007年6月18日号「化学物質を管理するということ−欧州の新たな化学物質管理法−」で紹介しましたが、日本における化学物質管理の柱となる法律です。この化審法とその関連法令は、環境中での残留性や生物蓄積性、毒性の観点から「化学物質」をいくつかのグループに分け、製造・輸入・流通などを規制したり、製造・流通量を報告させたりといったように、グループ毎に管理方法を定めています。この法律は2009年に改正・公布されました(2009年9月7日号「化審法の改正」参照)。

 改正前後のいずれにおいても、化審法において最も管理が厳しいのは、「第一種特定化学物質」というグループに分類されている化学物質です。これらは環境中で分解され難く、動物に蓄積しやすく、発癌性や生殖毒性など慢性毒性を有する性質があり、原則、製造・輸入・使用が禁止されています。

図1 DBHPBTの構造式

 2007年、この「第一種特定化学物質」に、2-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ブチルフェノール(CAS No. 3846-71-7)という長い名前の化学物質が追加になりました(図1)。以下「DBHPBT」と略します。この化学物質は、紫外線吸収剤として、プラスチック製品とくに自動車の部品や建材などに使用されていました。ところが、環境中で分解され難く、動物(魚)に蓄積しやすいことが判明し、また、慢性的な曝露により、肝臓への毒性影響がみられたことから、「第一種特定化学物質」に指定されました。

 このDBHPBTは、自動車や建物など耐久消費材に使用されたことから、「第一種特定化学物質」として新たな使用が規制されても、この化学物質を含有した製品は数年〜数十年使用されることになり、今後も廃棄物として排出される可能性があります。また、DBHPBTはいくつかの国で現在もなお生産・使用されており、これらの国では今後もDBHPBTを含有した廃棄物が排出されます。このようなことから、DBHPBTを含有した廃棄物の適正処理の方法が必要とされています。

 このDBHPBTは主にプラスチック製品に使用されていたことから、含有廃棄物の処理方法として焼却が主要なプロセスであると考えられます。そこで、DBHPBTを0.5%添加したごみを作成し、国立環境研究所の循環型社会・廃棄物研究センターに設置された熱処理プラント(小型の実験焼却炉)で燃焼試験を実施しました(以下「添加試験」と言います)。また、比較のため、DBHPBTを添加しないごみの燃焼試験も同時に実施しました(以下「ブランク試験」と言います)。なお、DBHPBTの添加量0.5%は、ワーストシナリオを想定したもので、プラスチックへのDBHPBTの添加量が1%で、ごみに含まれるプラスチックの割合が50%でそのすべてにDBHPBTが含有されている条件を設定しました。また、燃焼は、ダイオキシン類の排出源対策に準じた条件で行いました(2007年9月18日号「ダイオキシン」参照)。この結果、ごみ経由で投入したDBHPBTのほとんどが、一次燃焼で分解していることがわかりました(図2a)。その後、二次燃焼や排ガス処理系統(バグフィルタによる集塵と活性炭吸着)でも分解・除去され、添加試験における最終出口排ガスや灰中のDBHPBTレベルは、ブランク試験とほぼ同レベルになりました。また、添加試験時において、焼却過程において投入量の99.9999%以上のDBHPBTが分解されていることがわかりました。

 ところで、ごみの焼却処理の場合、ダイオキシン類やヘキサクロロベンゼン(以下「HCB」と言います)など、燃焼により二次的に生成する有害化学物質にも注目しておく必要があります(2009年3月9日号「ごみ焼却炉から発生するダイオキシン類を管理するために」参照)。DBHPBTを燃やすことで、これらの有害化学物質の二次生成が増加したのでは、焼却が適正な処理方法と言えなくなるためです。そこで、ダイオキシン類とHCBについても、上記の燃焼試験時に分析しました。この結果、DBHPBTがごみの中に0.5%と多量に含まれていても、焼却炉におけるダイオキシン類とHCBの生成・分解・除去に大きな変化はなく、DBHPBTを添加しないブランク試験とほぼ同じ挙動を示すことが明らかとなりました(図2b,c)。

 これらのことから、ダイオキシン類の排出対策を施した焼却炉を使えば、DBHPBTを含有した廃棄物について、焼却が適正な処理手法の一つであることが示されました。今回の実験で使用した熱処理プラントのような実験施設は世界的にも数が少なく、今回の研究のように有害化学物質を含有した廃棄物の適正な焼却処理手法の確認や確立ができる機関は少ないのが現状です。このため、このような研究は、当研究センターに課せられた主要なテーマの一つです。


図2  DBHPBT添加ごみ及び未添加ごみの燃焼過程における有害化学物質の挙動(縦軸は、実験時間における総量(μg))
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. M. Watanabe and Y. Noma: Behavior of 2-(3,5-di-tert-butyl-2-hydroxyphenyl)benzotriazole (DBHPBT) and unintentionally produced POPs during incineration of solid waste containing DBHPBT, Organhalogen Compounds, in press.
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