循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2009年3月9日号

ごみ焼却炉から発生するダイオキシン類を管理するために

安田憲二

 家庭から排出されているごみを焼却すると、微量ですがダイオキシン類などの有害なものが生成されます。生成されるダイオキシン類の量(濃度)は、ごみの成分のほかに、焼却する際の温度(燃焼温度)、燃焼排ガスの冷却方法、ばいじんなどを除去するための集じん装置の種類やその除去能力によって変わります。また、家庭から排出されるごみには、調理くずや食べ残しなどのちゅう芥類、紙くず、ポリ袋などのプラスチック類、庭ごみ、ガラスなどの不燃物が含まれています。これらのごみの成分が日々変化しますので、当然、燃焼の状態も絶えず変化します。このため、焼却施設でごみを燃やす際には、ごみ組成や燃焼状態の変動に応じて焼却施設の運転状況を変化させて、ダイオキシン類などの有害なものが生成されないようにする必要があります。

Dr.グッチー

 ダイオキシン類は焼却施設内でのごみの燃焼時と集じん装置の2カ所で主に生成されますが、生成される場所によってダイオキシン類の濃度は異なります。この生成濃度は、ごみの成分や集じん装置の運転状況(主に排ガス温度の制御)によって変化しますが、これまでの研究では、焼却施設からのダイオキシン類総排出量のうち、約80%は集じん装置で生成されたものであるとの報告がされています。このことから、集じん装置での生成(二次生成物といいます)を監視することも必要です。

 ダイオキシン類が生成される濃度は排ガス1立方メートル当たりナノグラム(ng)単位と非常に低い(これは、学校などにある50mプールに目薬を一滴垂らした濃度になります)ことから、排ガスに含まれているダイオキシン類を測定・分析するためには長い時間と高額な費用が必要となります。通常、1検体のダイオキシン類を測定するためには、3人がかりで1日以上、分析も早くて約2ヶ月程度かかりますので、費用も1検体当たり50万円前後と非常に高価です。このため、焼却炉を管理している市町村では、ダイオキシン類の測定を1年に1回だけ(法律では、1年に1回以上測定することになっています)実施しており、ダイオキシン類の生成をきめ細かく監視しているとは言い難い状況にあります。

 ごみの燃焼時にダイオキシン類が生成される際には、塩素や臭素など、いわゆるハロゲンを含む有機物(有機ハロゲン類)も同時に生成されています。これら有機ハロゲン類のうち、特にクロロベンゼン類やクロロフェノール類は、ダイオキシン類と同様にごみの燃焼時と集じん装置内でばいじんが捕集される時に多く生成されています。

 また、これらの生成濃度はダイオキシン類と比べて非常に高く、測定・分析も簡単なため、短時間に安価で測定データを得ることができます。このため、ごみの燃焼時に生成されるダイオキシン類と有機ハロゲン類の相関が確認できれば、直接排ガス中のダイオキシン類を測定しなくても、代わりにクロロベンゼン類やクロロフェノール類などの有機ハロゲン類を測定することで、ダイオキシン類の生成を予測することが可能となります。

焼却施設に設置された有機ハロゲン類の測定装置

 そこで、廃棄物の種類別に複数の焼却施設(最新のガス化溶融施設も含む)について、焼却施設の排ガスおよび飛灰中のダイオキシン類と有機ハロゲン類の濃度を同時に測定して、両方の相関関係を調べました。その結果、両者に相関関係が認められるとともに、これらの濃度は焼却施設の運転条件とも相関性が高いことが示されました。このことから、ごみ焼却施設からのダイオキシン類の発生を抑えるためには、直接ダイオキシン類を測らなくても、代替として有機ハロゲン濃度を測定し、それにより焼却施設の運転管理を行う方法が有効であることが分かりました。この方法では、ダイオキシン類を直接測定する方法と比べて測定・分析の期間が短く安価に結果を得られることから、市町村も排ガス測定の回数を現行の年1回から大幅に増やせるなど、より安全で安心な焼却施設の運転が確保できると考えられます。

 今後の課題ですが、焼却施設におけるダイオキシン類の生成は、ごみの成分や使用する焼却施設により複雑に変化しており、生成濃度の変動が大きいという特徴があるので、ダイオキシン類の発生を抑えるためには、より多くの測定データを集めて焼却施設の運転管理方法の精度を高めることが必要です。このため、さらに多くの焼却施設について測定を実施していく予定です。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 安田憲二ほか :廃棄物焼却炉からの排ガスおよび飛灰中における有機ハロゲン類濃度を活用したダイオキシン類の代替計測に関する研究、第19回廃棄物学会研究発表会講演論文集、pp.588-590、2008
  2. Kawamoto K. and Yasuda K. :Mass balance of dioxins around dust collection systems and flue gas monitoring with surrogate organic halogens. Organohalogen Compound, 70, pp.74-77,2008
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