循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年4月21日号

家庭ごみからの金属回収可能性は?

鄭昌煥

 私たちが日々使用する日常生活品を作るのに欠かせない物質の一つが金属資源です。日本は、そのほとんどを海外からの輸入に頼っています。特に、テレビやパソコン、携帯電話、自動車等のハイテク機器への使用量が増加している希少金属類は、ほぼ全量が海外からの輸入です。 最近、テレビや新聞などをみると、自国に存在する資源は自国で管理・開発し、自国の資源に対する主権を確立しようとする動き、すなわち「資源ナショナリズム」という言葉がしばしば登場します。これが拡大していくと、資源を使う技術を持っていても、資源そのものを持たないで他国に頼っている国は「資源危機」にさらされることになります。 金属資源については、まさに日本がそのような資源危機にさらされる国といえます。

 そこで重要になってきたのが、私たちの社会に存在する資源のリサイクルです。すなわち「ごみ」からの資源回収です。そこで、今回は私たちの日常生活から出るごみの中にどんな金属がどのくらい含まれているのか、またその金属は、ごみ処理の流れの中から資源として回収できるのかどうかについて考えてみたいと思います。

 まず、私たちが出しているごみはどのように処理されているでしょうか。家庭から出るごみは、主に可燃ごみ(紙、プラスチック、衣類、木など)、不燃ごみ(金属類、ガラス類など)、資源ごみ(缶、ビン、PETボトルなど)、粗大ごみ(ラジカセ、電子レンジなどの家電製品、家具・寝具類)などに分けられ、収集されます。 処理方法は、図1に示したようにごみの種類ごとに様々な選択肢があります。

図1 ごみ処理フロー

 それでは、これらのごみ中にはどのくらいの金属が含まれているでしょうか。各ごみ処理施設から発生する処理物中の金属量、例えば、可燃ごみを処理しているごみ燃料化(RDF化)施設のごみ燃料中の金属量を測ることにより、可燃ごみ中の金属量を推定することができます。 同様に、生ごみの堆肥化施設から出る堆肥及び残渣中の金属量を測ることにより生ごみ中の金属量を、また、粗大ごみについては破砕施設の処理残渣から粗大ごみ中の金属量を推定することができます。このような方法で、家庭ごみに含まれる金属の種類と量を推定した結果が図2です。

図2 家庭ごみ中の金属量

 家庭ごみ中に一番多く含まれる銅は、粗大ごみ中に非常に高く含まれています。廃家電製品は粗大ごみとして処理されますが、中に含まれる電子基板には鉛、銅、亜鉛等のベース金属や金、銀等の貴金属類、インジウム、ガリウム等の希少金属類が多く使われています (2007年11月5日号「愛用パソコン、パソ子のゆくえ」「基盤と貴金属」参照)。粗大ごみ中に多くの金属が含まれているのは廃家電製品に由来していると考えられます。次に多い亜鉛は、可燃ごみ中に意外と多く含まれています。まず、酸化亜鉛が様々なゴム製品に使用されています。 天然ゴムのままでは必要な弾性や強度が出ないので、これに炭素や硫黄が配合されますが、その際、酸化亜鉛が反応促進剤として使われているのです。また、亜鉛は、紫外線をカットするUVケア化粧品やサンスクリーン、白色顔料、カメラのフィルム、印刷用インクにも使われています。 このように、亜鉛は、様々な日常生活品に幅広く使用されるので、可燃ごみ中に多く含まれています。鉛は、鉛蓄電池が主用途ですが、一部は塗料やプラスチック等に色を付ける顔料等にも利用されます。このため、可燃ごみや粗大ごみ等に含まれています。現在、有害性の面から鉛を用いないものへの置き換えが進められているので、ごみ中の鉛の量は徐々に減っていくと期待されます。 アンチモンはプラスチックの難燃剤として主に使用されています。可燃ごみ中にアンチモンが高いのは、プラスチック製品が多く含まれているのが原因だと考えられます。

 では、これらのごみ中の金属は資源として回収可能でしょうか。実際には、低濃度で様々な製品に含まれている金属を、一旦捨てられた製品(ごみ)から回収することは技術的にも経済的にも困難です。しかし、様々な製品に少しずつ入っている金属がどこかに濃縮されれば、又は金属が多く使われた製品を選択的に他のごみと分けて収集できれば、十分資源として回収可能です。 このような濃縮プロセスの例として、図1中の灰溶融・ガス化溶融処理が注目されます。溶融処理では、ごみ中の低濃度の金属が処理残渣(溶融飛灰)に濃縮され、その含有量は金属鉱石に匹敵するほど高いものです。また、先に説明した通り家電製品中の電子基板には鉛、銅、亜鉛等のベース金属やハイテク産業に不可欠な物質である希少金属類等の有用金属が多く含まれています。 近年、このような有用金属が高濃度で含まれている溶融飛灰や電子基板等は「都市鉱山」と呼ばれ、新たな資源として注目を浴びています。

 国立環境研究所では、資源安全保障の観点からの循環技術システムとして、「都市鉱山」からの金属回収の可能性について、物質フローや回収技術の開発・評価に関する研究に取り組んでいます。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Jung, C.H., et al.: Flow analysis of metals in municipal solid waste management system, Waste Management, 26, pp.1337-1348, 2006
関連研究 中核研究2
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