循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2007年10月15日号

私たちの消費と廃棄物とのつながりを追う

南斉規介

 近況(2006年11月20日号)に掲載された「近未来の循環型社会のビジョンを一緒に考えましょう!」でもご紹介しましたが、現在、当研究センターでは10〜20年後の循環型社会のビジョンを描くための研究プロジェクトを進めています。 まだ読んでない・・・という方は、「環環」の総集編(vol.1)が完成しましたので、これまでの記事も含めてぜひ読んでみて下さい。

 この研究プロジェクトでは、10〜20年後の循環型社会のビジョンを描くため、私たちのライフスタイルの変化にも着目しています。例えば、一人暮らしの単身世帯が増えるとしましょう。単身世帯でも電化製品や車や自転車を所有します。また、スーパーやコンビニで売られている小分けされた惣菜やお弁当を購入することが多いのではないかと思います。 こうしたライフスタイルが相対的に増加すると、電化製品に使われる金属の消費量が増え、家庭ごみは生ごみなどが減る一方で、プラスチックごみが増えるということが想像できます。このように、私たちが今後どのような暮らし方をするか、消費の仕方をするかによって、発生する廃棄物の種類や量、必要となる資源も違ってきます。 そのため、近未来の循環型社会を支える技術システムや社会の制度を考える上で、ライフスタイルの変化とその影響を考えておくことは大変重要だと考えています。

 少し前置きが長くなりましたが、本研究プロジェクトでは上記の研究を行うため、まずは、私たちが何を消費すると日本全体でどのような廃棄物がどれくらい発生するのか、どの資源がどれほど使われるのかを計算しています。そして、この情報を基にライフスタイルの変化(ある物やサービスに対する消費が増加または減少することで表現する)がもたらす廃棄物や資源への影響を見積ります。 では、消費に伴う廃棄物の発生量と資源の利用量をどのように計算するのか、廃棄物の場合を例に説明したいと思います。

 考え方の基本は"物と物のつながり"に着目することです。例えば、お弁当を買ったとします。食べ終わった後のお弁当箱がごみになります。これは、目に見えて分かり易いですね。では、お弁当のつながりを廃棄物の排出の観点から広げていきます。中のおかずを調理する工場では、野菜の切れ端、古くなった油などの食品廃棄物が出ます。 そして、お弁当の箱を作る工場では、プラスチック製であれば、プラスチックを成型したときの切れ端が出ます。工場が稼動するにはオフィスが必要で、そこで使用済みとなった用紙は紙ごみとなります。更につながりを辿っていくと、野菜作りでは、肥料の入った袋や壊れた箱、油を作る工場では機械を洗った排水からの汚泥や洗剤の空き箱が廃棄されるでしょう。 また、どの工場でも電気は使いますので、電気を供給する発電所では、燃料が燃えた灰が廃棄物となります。このように、"物と物のつながり"に着目すると、お弁当箱そのものだけでなく、多くの廃棄物が間接的に発生していると考えることができます。要はライフサイクルアセスメント(LCA)と同じ考え方です。

 しかし、この間接的な廃棄物を一つ一つ数えあげていては、切りがありません。そこで、本研究プロジェクトでは、『産業連関分析』という手法を使って排出量の推計を行います。産業連関分析は、1973年にノーベル経済学賞を受賞したWassily Leontief(ワシリー・レオンチェフ)によって開発されました。 この手法は『産業連関表』という統計に記述された「物の生産量=自身および他の物の生産のために消費した量+消費者等が消費した量」というバランス式を基礎とします。 そして、何の生産のために消費したかを区別して、物ごとに式(方程式)を作成します。このバランス式は、正に物と物のつながりを連立方程式という形で表現しており、得られる解は、つながりを無限に追った場合に、私たちがある物を1つ消費すると、影ではその物自身や他の物がどれだけ生産されるかを示します。

 つまり、お弁当を1つ消費すると入力し連立方程式を解くと、1つのお弁当の消費の裏で、お弁当自身も含め、各々の物(j)が生産された量(gj)を得ることができます。そして、別途、物(j)を1つ生産することで排出される廃棄物の量(wj)を調査します。 次に、得られたgjにwjを乗じると、お弁当生産の裏で、物(j)が生産されることによって排出された廃棄物の量(zj=wj×gj)が計算できます。お弁当の裏で、いろんな物(j)が生産されていますから、それぞれから排出された廃棄物の量(zj)を全部足すと、お弁当の消費の裏で排出された総廃棄物量が分かります。

 最後に簡単な計算結果を図に示します。日本の家庭で1年間(2000年を対象)に消費した全ての物を生産するためには、上記の計算を行った結果、約237百万トンの廃棄物が排出されたことになります。この量は、家庭から出る廃棄物量の約3.7倍です。その内、33%は食料品の生産のためで、7%はスーパーやコンビニで新鮮で便利な物を提供する影で排出されたと分析できます。

 また、本研究プロジェクトでは、計算のためデータ整備も進めています。特に、物を1つ生産すると排出される廃棄物の量(wj)を種類も詳細にしてより正確に把握し、消費と廃棄物との関係を示す信頼性の高い数値を得ることを目指しています。 また、産業連関分析は、物と物、物と廃棄物とのつながりを一つ一つ読み解いていくことができるため、何が原因で廃棄物が排出されているかを突き止めることが可能です。この分析手法の強みを生かし、ライフスタイルが変化し、排出される廃棄物が変わる場合、今後どの産業でどのような廃棄物処理対策が必要になるかを考えるための情報を提供していきたいと考えています。

家庭の消費によって工場等で出た廃棄物量(発生量から有価物を引いた排出量)
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Kagawa, S. et al.: An Empirical Analysis of Industrial Waste Embodied in the 1995 Japanese Economy, Journal of Applied Input-Output Analysis, 9, pp.69-92, 2003.
  2. Nansai,K.et al.: Compilation and Application of Japanese Inventories for Energy Consumption and Air Pollutant Emissions Using Input-Output Tables, Environmental Science and Technology, 37, pp.2005-2015, 2003.
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