循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 社会のうごき
2008年10月6日号

バイオ燃料による食糧問題と解決策としての廃棄物の有効利用

倉持秀敏

 最近、ガソリン価格の高騰がニュースでよく取り上げられていますが、その一方で、ガソリンや軽油の代替燃料であるバイオ燃料に関する話題もよく目につきます。今回は、自動車燃料代替のバイオ燃料について取り上げたいと思います。この用途でのバイオ燃料として現在使われているのは、主にバイオディーゼル(BDF)とバイオエタノールです。

ゆうぞう博士&りえ

 BDFは、油脂とメタノールからエステル交換反応により得られる脂肪酸メチルエステルのことで、軽油代替燃料として利用されています。バイオエタノールは、グルコースなどの糖類から発酵により得られるエタノールで、ガソリン代替燃料として利用されています。いずれの燃料も植物が原料となります。その植物が継続的に生産されていれば、バイオ燃料の利用時に排出されるCO2と植物(原料)の成長(再生)時に利用されるCO2の量が同等であり、大気中のCO2の増減に影響しないことから(カーボンニュートラル)、CO2の排出量が少ない再生可能な燃料とみなすことができます(ただし、その植物が持続可能な形で継続的に生産されていなければカーボンニュートラルは成り立ちません)。

 それゆえ、地球温暖化問題や石油資源枯渇問題の観点から、近年、欧米を中心にその導入量が急激に増えています。現在、EUにおけるBDFの生産量は約645万kL/年、米国におけるバイオエタノールの生産量は約2,460万kL/年といわれています1)。日本でも、BDFが約5000kL/年2)、バイオエタノールが約30kL/年生産され3)、その生産量はごく僅かですが、2010年には原油換算量にして50万kL導入する計画(京都議定書目標達成計画)が閣議決定されています。

 欧米では、バイオディーゼルは大豆油もしくは菜種油から製造されています。一方、バイオエタノールはトウモロコシなどのでんぷん質を多く含む農産物から製造されています。つまり、欧米におけるバイオ燃料は、主に食糧から製造されています。さて、食糧となる農産物を原料にするとどういう影響が現れるのでしょうか?欧米が高い導入目標(例えば、米国の2022年の導入目標は1億3600万kL)に向けて大量にバイオ燃料を導入すると、食糧用の農産物が少なくなり、食糧価格が高騰し、食糧を輸入している貧しい国では食糧を購入することができなくなります。昨年からこのような問題が顕在化し、食糧を求めて暴動が起きる国も出てきています。今年7月の洞爺湖サミットにおける食料安全保障に関するG8首脳声明にも「バイオ燃料の持続可能な生産及び使用のための政策が食料安全保障と両立するものであることを確保し」という文言が入っており、さらに、食糧と競合しない原料からバイオ燃料の製造を進めることが明記されています。

 では、食糧と競合しない原料とはどんなものでしょうか?例えば、バイオ燃料の原料成分を含む廃棄物、非食用の植物油、さらに、木や稲わらなどの草本類も原料として考えられます。木や稲わらは、油脂でもでんぷん質でもなく、セルロースが主成分の植物ですが、セルロースを加水分解すればグルコースが得られるので、バイオエタノールを製造することができます。

 日本では、大豆などのバイオ燃料の原料となる農産物の生産量が少ないこともあり、廃棄物からバイオ燃料を製造しています。BDFは廃食用油から製造され、一方、バイオエタノールは廃糖蜜(砂糖を精製する際に生じる副産物)から製造されていますが、最近では、廃木材や生ごみから製造する実証事業が始まっています。ただし、木材を原料とすると、グルコースを得るために多くの処理やエネルギーが必要です。また、グルコース以外の糖類や糖類以外の有機物も多く含まれるため、糖類の効率的な発酵技術や糖類以外の有機物の有効利用技術も必要となり、様々な技術的な課題があります。

 BDFやバイオエタノールは、油脂やグルコースなどの糖類を原料とすることから、原料が限定され、廃棄物すべてを原料とすることができません。そこで近年注目されている技術が液体燃料化(BTL, :Biomass-to-Liquid)技術です。この技術は水素(H2)と一酸化炭素(CO)から軽油やガソリンの主成分である炭化水素を合成する技術です。有機質を含む廃棄物であれば、熱化学処理、例えば、熱分解ガス化(2008年2月18日号「循環・廃棄物のけんきゅう」参照)によってH2とCOを製造することが可能です。つまり、BTLを用いれば、ごみの性状にあまり依存せずにバイオ燃料を合成することが可能となります。ただし、BTLでは多種の炭化水素が製造されるため、自動車燃料になる炭化水素成分を選択的に製造する方法を確立することが課題となっています。

 廃木材から得られるバイオエタノールやBTLから得られる液体燃料は次世代バイオ燃料と呼ばれ、食糧と競合しないバイオ燃料として有望視されています。洞爺湖サミット首脳宣言にも次世代バイオ燃料の製造に関する研究・技術開発を進めるという内容が盛り込まれています。

<参考資料>
  1. NEDO 海外レポート 1026号, http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/1026/1026.pdf
  2. エコ燃料推進会議、議輸送用エコ燃料の普及拡大について、http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_ecofuel/rep1805/full.pdf
  3. 農林水産省、我が国におけるバイオエタノールの生産動向、http://www.maff.go.jp/j/biomass/b_energy/pdf/bea_03.pdf
関連研究 中核研究3
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー