循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - その他
2008年3月17日号

イェール大学産業エコロジーセンター滞在記(2)

橋本征二

 今回は、私がこちらで従事している研究の概要についてご報告します。

 前回にも少し触れましたが、産業エコロジーセンターでは、これまでに様々な金属のストックとフローを世界レベルで推計してきています。具体的には、銅からスタートして、亜鉛、銀、クロム、鉄、ニッケル、鉛、アルミなどを対象とした研究がなされてきました。 私は現在、ステンレス鋼のフローを追う研究に従事していますが、実はこの研究、これまでにこのセンターが行ってきたクロム、鉄、ニッケルをつなぐ研究になります。

 ステンレスと聞いて、まず何が思い浮かぶでしょうか。ステンレスとは、よくご存じのように「ステン(錆)」「レス(ない)」鋼です。身近なものとしては、フォーク、スプーン、お玉、鍋、流し台、調理台、冷蔵庫、浴槽など水回りの製品がありますが、このほか、 建設用の資材、腐食が問題となるような産業機械、医療用の器具、鉄道車両や自動車などの輸送機械、上下水の処理施設など、様々な場所で用いられています。

ナビゲータ:たけ

 では、ステンレスはなぜ錆びないのでしょうか。鉄はもともと、自然界で酸化物として存在していますが(これが鉄鉱石です)、人間がそれを還元することによって鉄にしています。したがって、放置しておくと水や酸素と反応して本来の安定な酸化物に戻ろうとします。 これが錆びるという現象です。実は、鉄に一定量以上のクロムを加えると、不動態(表面に化学的に安定な保護被膜を形成した状態)というものを形成して鉄が錆びにくくなるのです。ニッケルを加えると、さらに不動態を形成しやすくなり、また、加工性も向上します。つまりステンレスは、鉄にクロムやニッケルを加えた合金なのです。

 もうお分かりですね。「これまでにこのセンターが行ってきたクロム、鉄、ニッケルをつなぐ研究になる」と書いたのは、このような意味でした。

 この研究は、国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)との共同研究で行われています(ISSFのプレスリリース参照)。実は、産業エコロジーセンターの特徴の一つが、このような産業界とのつながりです。 これまでも、国際銅協会(ICA)国際クロム開発協会(ICDA)国際鉄鋼協会(IISI)ニッケル協会国際アルミ協会(IAI)などと共同研究を行っています。 そして、ステンレス鋼については現在、写真の4名が産業エコロジーセンターで作業に関わっています。

 さて、ステンレス鋼のストックとフロー、すなわち、生産から消費、廃棄の全体像を描くためには、いくつか明らかにしなければならないことがあります。生産については統計がありますので問題ありません。必要な作業は大きく3つです。 1つ目は、最終的にどのような用途にステンレス鋼が用いられているのかを明らかにすること、2つ目は、廃棄物の処理がどのようになされているのかを明らかにすること、3つ目は、製品としてどのくらいが貿易されているのかを明らかにすることです。

 1つ目の課題に対しては、最終使途に関するアンケート調査を行うとともに、産業連関分析という手法を援用した推計を行っています(産業連関分析の概要については「私たちの消費と廃棄物とのつながりを追う」を参照ください)。2つ目の課題に対しては、少ない調査事例から仮定を置いて推計するしか今のところ方法はありません。 3つ目の課題に対しては、貿易に関する統計をもとにした推計を行うとともに、最終使途と同様に産業連関分析を援用した推計を行っています。

 さらに、これらの推計結果をもとに、ステンレス鋼が社会のなかで平均して何度使われ、何年存在するのかを推計することを試みています。社会における平均的な使用回数や使用年数を明らかにすることは、その資源がどのくらい有効に利用されているのかを計る一つの指標になります。

 今のところ、公にできるだけの確定した結果は出ていませんが、いずれ「循環・廃棄物のけんきゅう」のコーナーで結果をご紹介できればと思っています。

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