循環・廃棄物の豆知識
2016年12月号

微生物燃料電池とは

徐 開欽

近年、地球温暖化抑制のために、水素を燃料とする水素燃料電池を搭載した燃料電池自動車等が盛んに行われ、公道を走るように実用化されはじめました。従来のガソリンエンジンに比べ3倍以上のエネルギー効率があり、二酸化炭素を排出しないため期待は大きい一方、白金電極の高寿命化、水素の製造、運搬、インフラなど課題も多いです。それに対し、バイオマス(工業原料やエネルギー源となる動植物由来の有機物をはじめとする各種廃棄物)を燃料とする微生物燃料電池が注目を集めています。循環センターでも、微生物燃料電池の仕組みを応用した廃棄物の微生物電気分解(2015年8月号「CO2からモノを生み出す微生物電気分解」)によるエネルギー生産の研究を進めています(2016年12月号「電気と微生物の共同作用による有機性排水・廃棄物からの水素生産」)。

微生物燃料電池(microbial fuel cell、MFC)とは、微生物の代謝能力を利用して有機物などの燃料(化学エネルギーを保持した物質)を電気エネルギーに変換する装置です(図).微生物燃料電池はプラス極(カソード)とマイナス極(アノード)から構成されます。マイナス極では、燃料(有機物)が微生物により酸化分解される時に発生する電子を電極で回収します。その電子は外部回路を経由してプラス極に移動します。移動した電子はプラス極で、酸化剤の還元反応により消費されます。マイナス極で発生する化学反応とプラス極で発生する化学反応の酸化還元電位(電子を授受する能力)の勾配に従い電子が流れます。二つの極の電位差と外部回路を流れる電流の積に相当するエネルギーが外部回路において得られます。

イラストMFC は、概念としては比較的古くから知られていました。たとえば1970 年代に、宇宙基地のエネルギー源としての期待からアメリカのNASAで研究されたといわれています。それ以来、20世紀中にも微生物燃料電池の研究は一部の研究室で行われてきましたが、それほど大きな注目を集めるには至りませんでした。この理由としては、当時(20世紀中)は石油資源欠乏や地球温暖化の問題に関する認識が低く、新エネルギーに対する期待はさほどでもなかったこと、得られた電気の出力があまりにも低かったことや、微生物から電極に電子を渡すために電子媒体となる化合物が必須であったことなどが挙げられます。しかし、1990年代の終わりごろ、電子媒体を人工的に添加しなくても自ら比較的効率よく電子をマイナス極に伝達する能力のある微生物が発見され、それに加え21 世紀になって装置に改良が加えられるに従い、微生物燃料電池に大きな関心が寄せられるようになってきました。また、再生可能エネルギーの必要性が広く認識されるようになったことも、微生物燃料電池の研究にとって一つの追い風になっています。

MFCは微生物が有機物を分解する過程で生じる電子を利用し発電を行うものであり、火力、水力、原子力といった現在主流の発電方式と異なり、電気エネルギーを直接取り出すことができます。また、比較的簡易な装置での発電が可能で、コストの削減やインフラ設備が整っていない地域への設置にも期待されます。MFCのメリットは、汚水や汚泥などの有機物を燃料として用いることができ、発電と同時に有機廃棄物の処理や水質改善などの環境浄化にも応用可能です。さらに、燃料電池の燃料源のバイオマスを、排水から稲わらなどの未活用農産廃棄物や糖蜜などへ広げることによって、より高出力のバイオマス活用型微生物燃料電池を開発することができます。

MFCの社会実装に向けた展開としては、例えば排水処理施設に組み込まれるような大規模なシステムや家庭用生ゴミ処理、さらにはポータブルMFCといったものまで様々な可能性が考えられ、それぞれの用途に応じたシステムの最適化が求められます。MFCは、有機物を電気エネルギーに変換する装置であると同時に電極を利用して有機物を酸化分解する装置であり、小型電源、バイオマス発電、排水処理、バイオセンサーなど、様々な目的への応用が今後大いに期待されています。

図 図-1 微生物燃料電池の概念図
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