循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2006年12月4日号

リサイクルと化学物質について考えよう

野馬幸生

 私たちの身の回りの製品にはさまざまな化学物質が使われていますが、どの製品にどのような化学物質が使用されているか考えたことはありますか。また、製品が捨てられた後、それらに含まれる化学物質は一体どこへ行って、 どうなっているでしょうか。化学物質は有用なものとして使用されていますが、無害な物質だけでなく、中には有害な物質もあります。また、資源としての価値の高い物から低い物まであります。 多くの製品は使用された後に、廃棄物として燃やされ、埋め立てられるか、資源として価値のあるものは再び利用(リユース、リサイクル)されています。私たちが目指す循環型社会では、できる限り廃棄物の量を減らして、 発生した廃棄物についてはできる限り資源として活用することが求められています。しかし、使用済みの製品を資源として再利用するときに、製品(廃棄物)に有害物質が含まれる場合は、それらをきちんと除去し、 むやみに再利用しないように、またリサイクルして再生品をつくる過程では、新たな環境汚染が発生しないように注意しなければいけません。そのためいろいろな廃棄物について、リユースやリサイクルが可能か、 あるいはリユースやリサイクルすることが適切かどうかを前もって判断する必要があります。もっと根本的なことをいうと、製品をデザイン(設計)するに当たって、資源活用や化学的な安全性の観点からリサイクルのしやすさをきちんと考慮に入れることが、 ますます大切になってきています。

 私たちは、製品に使用されているさまざまな化学物質を、望ましい面(資源性)と望ましくない面(有害性)の双方から評価しながら、資源の循環利用を促進するための研究プロジェクト「資源性・有害性をもつ物質の循環管理方策の立案と評価」を行っています。 この研究プロジェクトでは、主にプラスチックや金属などを対象として、製品の使用後に、使えるものをリサイクルし、不要なものを最終的に廃棄処分する過程で、有害物質がどこに、どれだけ流れるのかを調べます。そして、「有害物質が環境へ排出される量」、 「その結果、人や生態系などへ及ぼす悪影響(リスク)」「替わりの物質を使ったときに生じるリスクやコストの比較」、「廃棄物に含まれる資源成分の評価」などを明らかにしてゆきます。資源としての価値をもつ使用済みの製品が無駄なくリユース、リサイクルできるように、 しかも、その過程でおこる有害物質の発生が少なくなることを目指す、言ってみれば二兎を追う研究です。

 プラスチックの例を説明したいと思います。プラスチックは、石油を原料として生産され、軽くて丈夫、加工のしやすい大変便利な素材として多くの製品に使われていますし、プラスチックのない社会はこれからも考えられないと思います。 そのため、プラスチックのリサイクル技術はどんどん進歩しています。リサイクルにはプラスチックそのものを材料とするマテリアルリサイクル、化学的にプラスチックを分解し原料として再利用するケミカルリサイクル、エネルギーとして回収するサーマルリサイクルの3つがあり、 マテリアルリサイクルが、もとのプラスチックの性質を変えずに(少ないエネルギー消費で)リサイクルできる最もよい方法と考えられています。プラスチックには劣化を防ぐ安定剤や色を付けるための着色剤、材料を柔らかくする可塑剤などのさまざまな化学物質(添加剤)が加えられていますが、 マテリアルリサイクルでは添加剤も再生プラスチックとして一緒にリサイクルされる可能性があります。しかし、添加剤の中にはリサイクルしない方がよいと考えられるものもあります。例えば、テレビ、パソコンや防炎(ぼうえん)カーテンなどのように使用時に高温になるような製品のケースカバーや電子基板には、 難燃剤という化学物質が加えられています。この難燃剤は、文字どおり材料を燃え難くする添加剤で、火事を防ぐために(火事になっても容易に炎が燃え広がらないようにするために)必要な物質ですが、臭素を含む難燃剤(臭素系難燃剤)である臭素化ジフェニルエーテル類は、 今では欧州など世界の国々で使用しないよう規制されています。それは、人や生物の体内に蓄積し、有害な作用を及ぼすと考えられるからです。臭素系難燃剤が有害な性質をもち、その作用が強いことがわかったときには、使用しないよう規制して、他の代替物質を使わなければいけませんが、 そのせいで火事の発生が増えてもいけません。臭素を含まない難燃剤に有機リン系難燃剤やアンチモンなど無機系難燃剤もありますが、臭素系難燃剤に比べると同じ効果を期待するには使用量が増えたりコストが高くなったりするといった問題もあります。このような代替物質に変更したときに火災の危険性、 ヒトの健康や生態系生物への悪影響の度合いは一体どのように変わるのか、また、コストについても経済的なのかどうかの評価が必要となります。図の上側は、臭素化ジフェニルエーテルなどを使用したときの難燃剤としての有用性と、毒性や蓄積性などの有害性とを天秤にかけて評価するイメージを示しています。 プラスチックという便利な素材は資源性を確保しながら、有害性の面からは悪影響が出ないよう安全性を確保することが重要です。また、図の下側は、臭素系難燃剤から臭素を含まない難燃剤に変更したときに最も適切な使用量はどれくらいになるかを示したものです。 火災リスクを下げるためには難燃剤の使用量を増やせば良いのですが、使用量を増やせば環境や健康へのリスクが増加する可能性もあります。そのため、両側のリスクを加算したものが最も低くなるポイントが難燃剤の使用量として許容できる最適な量だと考えられることを示しています。

 このように、私たちは、実際の調査に基づいて、化学物質と向き合い、有害物質をきちんと管理しながら、資源価値のある物質をうまく循環するために、どのようにすればよいかを考える研究を行っていきます。

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