循環・廃棄物のけんきゅう
2019年2月号

陸上の廃棄物が海洋マイクロプラスチックになるという話

石垣 智基

海洋プラスチック問題について

「海洋のプラスチックが引き起こす問題」と聞いて、みなさんはどのような問題をイメージするでしょうか?釣り糸や漁網に絡まった水鳥やオットセイの悲劇的な姿でしょうか。大量のゴミが海岸を埋め尽くしている惨状でしょうか。途上国の貧しいこどもたちがプラスチックまみれの海で遊んでいる様子でしょうか。どれもたいへんショッキングでインパクトが大きく、情緒的に強く訴えかけるものがあります。このような背景で、「プラスチック問題をなんとかしなきゃ!」という想いが世界中に広がっています。日本でも環境省がプラスチック資源循環戦略(案)をとりまとめ、ワンウェイ(いわゆる使い捨て)プラスチック製品の利用を削減していき、いったん製品となったプラスチックはできるだけ長く使用し、廃棄されたものは適切なリサイクルを推進していく、という方針が示されています。その上で、廃棄物の海洋流出の防止についての対応が図られています。

マイクロプラスチックとはなにもので、なにが問題なのか

マイクロプラスチック(MP)という名称から、「小さいプラスチック」なんだな、ということは容易に想像できると思います。しかし、どのくらい小さなものを指すかについては、明確な定義はありません。一般的には、過去多くの研究者が採用してきた「5 mm以下」がMPのサイズに関するひとつの指標です。なお海洋MPの調査には、海洋中のプランクトンや粒子の調査に用いられる網(ニューストンネット等)を用いたものが多く、その場合メッシュサイズ(0.33mm=330マイクロメートル)以下のプラスチック片は漏れてしまっていることに注意が必要です。つまり「マイクロプラスチック」は単位としてのマイクロメートル(0.001 mm以上1.0 mm未満)サイズを厳密に指していると言うよりは、小さいことの代名詞としての「マイクロ」が用いられていると考えた方が自然です。

海洋中のマイクロプラスチックについては、1970年代からその存在が報告されてきました。当時の主な興味の対象は、マイクロプラスチックが有害な化学物質の「運び屋」として汚染の拡散に寄与している可能性についてでした。マイクロプラスチックに吸着した有害物質や素材自体に含まれている化学物質が広範囲に移動することで、海洋生物や水産資源に与える影響が懸念されていた、という背景があります。もちろんマイクロプラスチック自体がそのような役割を果たすことは事実ですが、海洋中での化学物質の拡散にはその他に多くの影響因子が存在しており、マイクロプラスチックはその主要な原因とはいえない、というのが現在では通説になっています。一方で、マイクロプラスチックの摂取に伴う物理的な影響(消化管壁等への接触による刺激など)については未知な点が多く、そのリスクは否定されていません。世界中で使用されている食塩のうち相当数の製品からMPの混入が確認されていることや、糞便調査の結果から人間の体内に高い割合でMPが存在していることも明らかにされています。海洋マイクロプラスチック問題は、遠い世界のこども達やオットセイの問題ではなく、私たちの健康に直結しかねない問題だという認識が必要です。

MPは、工業原料(樹脂ペレット)やスクラブ・ビーズ等、もともとサイズの小さかった材料(一次MP)と、プラスチック製品が環境中で劣化して小片化したもの(二次MP)に大分されます。製造業の努力により、一次MPの放出抑制や製品への利用削減は進んでおり、MPの海洋流出量のうち一次MPが占める割合は1%以下であるという報告もあります。つまり、現在海洋中に流出しているMPの大部分は二次MPであるということが推測できます。

二次マイクロプラスチックの流出源

「プラスチック製品が劣化して二次MPになる」、と聞くと、真っ先にやり玉に挙げられるのは、沿岸や海洋での活動に直接的に影響を受ける、漁具、釣り具、海洋レジャー関係の物品です。それは冒頭に挙げたような水生生物への影響のインパクトが大きいからだと思われますが、実は海洋に流出する二次MPの流出源は沿岸域ではなく、大部分が陸上から河川を経由して海洋に到達するということが、シミュレーションの結果により示されています。ここで気をつけなくてはいけないのは、二次MPはもともと小さいサイズだったわけではないということです。つまり、河川へ流出する時点では使用済の製品や廃棄物として形のあるものだったプラスチックが、流下中に劣化してマイクロ化することも含めた上で、陸域が主要な流出源として考えられている、ということになります。世界全体の河川からのマイクロプラスチックの排出量の約6割がアジアで、流出量の多い20河川のうち15河川がアジアに位置するとされています。

具体的に、陸域での主要な流出源として考えられているのは、(1)廃棄物の埋立地や不法投棄サイト、(2)生活排水や下水の処理施設、(3)処理施設に接続していない人工水路の水門やスクリーン、などです。公衆衛生対策の進んでいる先進国や途上国でも都市域では、この3つはおおむね明確な点源排出源として分類できますが、未収集の廃棄物や未処理放流される生活排水の割合が高い地域では、(1)や(2)を経由せずに、面的に(非点源として)河川に直接流出してしまう状況も無視できません。また、ごみのポイ捨てによる環境流出も無視できません。非点源のプラスチック流出が大きな問題となってしまうような地域では、そもそも公衆衛生環境に支障があることが考えられるため、健全な生活環境を確保するための都市衛生管理の包括的な改善が必要で、その結果として副次的にプラスチック廃棄物の流出の抑制に繋がることが期待されます。

陸域からのプラスチック流出対策

(1)廃棄物の埋立地や不法投棄サイトからプラスチックが環境中に流出するのには、覆土が十分ではなくプラスチック廃棄物が飛散してしまうケースや、豪雨・浸水などによりプラスチック廃棄物が流出してしまうケースなどが考えられます。いずれも日本では、災害レベルの事故が生じない限りは考えられないような事態ですが、残念ながら途上国ではよく起こりうることです。埋立地を適切な場所に立地し、計画的に埋立を行い、覆土の管理を適切に行うことで、このような事態は減らせるはずですが、それさえなかなか実施されないというのが実態です。それ以外にも、埋立地で発生する汚水(浸出水)に含まれているマイクロプラスチックが、処理不十分のまま環境流出してしまうケースも考えられます。日本国内の埋立地浸出水を経由したマイクロプラスチックの排出実態は充分把握されていませんが、埋立地としての管理をすでに終了したような土地を含めると、流出源となっている可能性は否定できません。

(2)の生活排水・下水の処理施設に関しては、適正に運転されてさえいれば、含有されているマイクロプラスチックの大部分は汚泥に移行すると考えられています。発生した汚泥が熱処理される場合には、プラスチックの形態としては消滅するため問題はありませんが、土壌や農地に還元される場合には、その後の環境中での動態へと問題のフェーズが移行することになります。これはマイクロプラスチックに特化した問題でなく、肥料や土壌改良材の品質管理という点から、環境安全性に配慮することが重要です。そのほか、下水処理のプロセスにおいて、雨水と排水をあわせて排除している場合(合流式)においては、水量が増加した際の未処理越流という問題があります。日本国内においては合流式問題への対応は水質汚濁という点ではおおむね完了していますが、それでも水量増加時にマイクロプラスチックのような浮遊固形物を完全に除去するのは困難だといわれています。途上国ではそもそも水量増加への対応能力が充分でないために、汚水があふれて都市の浸水が発生する事態もしばしばあります。そうなるとプラスチック以前の問題として、感染症や臭気等の公衆衛生上の深刻な問題として対応に迫られることになります。いずれも、マイクロプラスチック問題をきっかけとして、廃棄物や廃水の処理を適切に行う必要性が強調されるのであれば、結果的に都市の衛生状態の向上という点での発展が期待されます。

(3)の人工水路については、特に途上国において深刻な問題であり、どこからプラスチックが混入するのか、という点について水路のネットワークと水路周辺の開発状況を含めて、注意深く検証する必要があります。水路への廃棄物のポイ捨て、建設廃棄物の不法投棄、水路付近の居住者に対する廃棄物収集サービスの不十分さ、路面排水由来のタイヤ片の混入など、さまざまな要因が挙げられる中で、適切な対策を採る必要があるからです。水路が廃棄物で閉塞すること自体が、水路の排水能力の低下に繋がり、都市の浸水発生要因となることから、水路への廃棄物混入を防止するための効果的な取り組みを進めていく必要があり、それが結果的にマイクロプラスチックの流出防止にも貢献すると考えられます。

環境省の打ち出したプラスチック資源循環戦略のような政策的後押しにより、我々の身の回りのプラスチック使用量は徐々に減っていくことが予想されます。ですが、それだけでただちにマイクロプラスチックの海洋流出量が削減するとは考えられません。プラスチック利用の回避と廃棄物の発生抑制について、国際的に強調しながら長期的なビジョンで進めつつ、並行して当面発生するプラスチック廃棄物の流出を効果的に防止する対策を採ることが必要です。ただし、特に海洋流出量の多いアジアの途上国にとっては、上述のように、適切な廃棄物・廃水管理を実践し、都市内の公衆衛生確保や浸水防止のための対策を徹底することで、マイクロプラスチックの流出量も結果的に削減できることが期待されます。グローバルな関心を集めている海洋マイクロプラスチック問題の解決策は、ローカルな環境問題改善のための地道な努力によってこそ、大きく前進するのかもしれません。

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