循環・廃棄物のけんきゅう
2018年2月号

バイオ重油の利用法の検討(バイオ重油がA重油に溶ける量と温度の関係)

倉持 秀敏

はじめに

我々は、飲食店等に設置されている阻集器(排水から油分や固形分を分離する槽)に浮遊するグリース(トラップグリース、図1)の燃料化を検討し、これまでエネルギー資源として未利用であったトラップグリースから液体と気体の2種類のバイオ燃料を製造するデュアルバイオ燃料製造技術を提案しています(詳しくは、Kobayashiら、Bioresour. Technol., 2014や国立環境研究所ニュース36巻4号)。液体燃料は、トラップグリースを加温して分離回収される油脂分であり、脂肪酸及び脂肪酸トリグリセリド(3つの脂肪酸分子と一つのグリセリン分子がエステル結合した物質)の混合物です。一方、気体燃料は、油脂分回収後に残る食品くず等を含む水溶液を発酵して得られるメタンガスです。メタンガスは発電用の燃料や都市ガスとして利用できるので、課題は液体燃料の利用法になります。油脂分の燃料利用法としてバイオディーゼル燃料(環環、2010年7月5日号)の原料とすることも可能ですが、精製にコストがかかりすぎて実用化は難しいと考えています。油脂分のエネルギーは化石燃料とほぼ同等なので、我々は、手を加えずに燃料利用する方法を検討しました。その結果、油脂分は通常中小工場のボイラーや小型船舶用ディーゼルエンジンの燃料として使われるA重油の代わりになる可能性を示しました。そこで、我々は油脂分をバイオ重油と呼んでいます。しかし、図2のように、バイオ重油は、室温になると、固体と液体の混合物になる場合が多々あります。それは、バイオ重油が融点(液体になる温度)の高い飽和脂肪酸及びそのトリグリセリドを含んでいるからです。例えば、飽和脂肪酸であるパルミチン酸やステアリン酸の融点は、それぞれ62.7℃と69.9℃であり、常温では固体になります。固体と液体の混合状態では利用しづらく、例えば、エンジンの燃料として利用するには固体を液化する加温等の改良が必要になります。

図1 阻集器に浮遊するグリース(トラプグリース) 図1 阻集器に浮遊するグリース(トラプグリース)
図2 様々な飲食店から回収したトラップグリースを加温して得られた油脂分、つまり、バイオ重油(室温になると一部が固体となる) 図2 様々な飲食店から回収したトラップグリースを加温して得られた油脂分、つまり、バイオ重油(室温になると一部が固体となる)

バイオ重油中の固体をなくすには

エンジン等を改造することなくバイオ重油を燃料として利用するには、いくつか方法があります。例えば、バイオ重油を冷やして、飽和脂肪酸及びそのトリグリセリドを固体として取り除く方法(取り除かれる量の計算は、豆知識の固液平衡の相図の読み方を参照)がありますが、取り除かれた物質の利用法を考えなければなりません。そこで我々は固体を含めてバイオ重油をすべてA重油に溶解させて、A重油として利用する方法も可能ではないかと考えました。しかし、飽和脂肪酸等が何度でA重油へどのくらい溶けるのかという情報すらないことから、温度と溶解する量の関係とその関係を推算する方法について研究しました。

飽和脂肪酸や飽和脂肪酸トリグリセリドは何度でA重油にどのくらい溶けるのか?

表1に示す3種類の飽和脂肪酸とそれらのトリグリセリドがA重油へ溶解する量と温度を測定しました。具体的には、上述の一つの物質を任意の割合でA重油に添加し、A重油に完全に溶解する温度、すなわち、液相線(固体成分が溶解する量と温度の関係、豆知識の固液平衡の相図の読み方を参照)を示差走査熱量計にて測定しました。その結果を図3に示します。液相線よりも高い温度では飽和脂肪酸等とA重油の混合物は均一な液体になります。飽和脂肪酸やそのトリグリセリドごとに液相線を比較すると、分子量が大きいほどA重油に溶解させるにはより高温が必要になることがわかりました。また、別の見方をすると、同じ温度では、分子量が大きいとA重油には少量しか溶けないことを示しています。例えば、飽和脂肪酸のなかで分子量の大きいステアリン酸(SA)で説明すると、25℃におけるA重油に溶ける量は、図3の25℃の黒い実線と青い実線の液相線が交わる点の横軸の値(青い矢印)になります。ちなみに、分子量が小さいミリスチン酸の溶ける量は、赤の矢印になります。両者を比較すると、溶ける量は倍以上異なります。実際のバイオ重油には分子量が大きい飽和脂肪酸とそのトリグリセリドが多く含まれているので(Kobayashiら、Bioresour. Technol., 2014)、バイオ重油はA重油に溶けないと予想されます。実際にはどうなるのでしょうか。我々は予備的な実験を行った結果、室温においてバイオ重油のA重油へ溶ける量は、A重油の20%以上にもなることが確認されています。それは、実際のバイオ重油は多くの成分から構成される混合物になるからです。多様な成分の存在により、飽和脂肪酸やそのトリグリセリドの重量分率が小さくなり、液相線が低温に下がったと考えられます。これは水に他の物質を溶かすと氷になる温度が低下することと同じようなことです。しかし、バイオ重油中の飽和脂肪酸等の成分は飲食店によって大きく異なるので、飲食店の食種の違いが液相線に及ぼす影響を調査しているところです。

表1 実験に用いた飽和脂肪酸及びそのトリグリセリド 表1 実験に用いた飽和脂肪酸及びそのトリグリセリド
図3 飽和脂肪酸もしくはそのトリグリセリドとA重油との混合物の液相線(固体がすべて溶解する温度) 図3 飽和脂肪酸もしくはそのトリグリセリドとA重油との混合物の液相線(固体がすべて溶解する温度)
<もっと専門的に知りたい人は>
  • Kobayashi et al., Bioresour.Technol. 169, 134-142(2014)
  • 由井和子ら,化学工学論文集,第 44 巻,1 号, 54-58(2018)
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