循環・廃棄物のけんきゅう
2018年1月号

有機リン化合物の廃棄物焼却実験

松神 秀徳

はじめに

私たちの暮らしに物質的な豊かさや利便性をもたらす家電製品や自動車も、いつか必ず使用済みとなり廃棄されます。家電製品や自動車のプラスチック部材には、火災が起きたときに火が燃え広がらないようにするための化学物質が混ぜ込まれていますが、このうち一部の有機リン化合物については、近年の調査研究の結果から、環境中で分解しにくく、生物の体内に蓄積しやすい可能性が疑われるようになりました。このような有機リン化合物については、使用済みとなった家電製品や自動車のプラスチック部材を処理する過程で可能な限り環境中に排出しないように管理する必要があります。

有機リン化合物の廃棄物焼却による環境排出を管理する観点では、実際の廃棄物焼却炉における有機リン化合物の挙動と焼却残さの性状を知ることはとても意義のあることです。しかし、実際の廃棄物焼却炉での実験の課題として、実験の規模が大きく有機リン化合物の廃棄物を大量に準備しなければならないこと、有機リン化合物の廃棄物以外の廃棄物も焼却したり、実験前の廃棄物焼却による影響を受けたりすることで、有機リン化合物の挙動と焼却残さの性状の評価が難しいことが予想されました。

そこで、私たちは、実際の廃棄物焼却炉を模し1/1000~1/10000にスケールダウンした焼却実験装置を使用して、有機リン化合物の廃棄物焼却実験を行いました。ここでは、その廃棄物焼却実験の概要と、焼却炉における有機リン化合物の挙動、並びに焼却残さの性状について得られた知見を紹介します。

廃棄物焼却実験の概要

廃棄物焼却実験には、国立環境研究所内の焼却実験装置(図1)を使用しました。この焼却実験装置は、実際の廃棄物焼却炉を模し1/1000~1/10000にスケールダウンした実験炉であり、キルン式一次燃焼炉、竪型二次燃焼炉、ガス冷却ダクト、排ガス処理装置としてバグフィルター、さらに高度な排ガス処理装置として活性炭吸着塔とスクラバーで構成されています。今回は、一次燃焼炉、二次燃焼炉、ガス冷却ダクトの温度を、廃棄物処理法に準じた現行の廃棄物焼却に制御した温度(それぞれ、840℃、900℃、150℃)に設定して実験を行いました。有機リン化合物の廃棄物は、一般廃棄物を均質化して固形化したもの(ペレット)の中に、含有量1パーセントの割合で有機リン化合物を調合したものを準備しました。このときに調合した有機リン化合物は、電気製品のプラスチックケースや自動車の内装材に使用されているものの中から4種類を選定しました。廃棄物の投入速度は、実際の廃棄物焼却炉に合わせてスケールダウンし、1時間当たり2 kgのスピードで5時間かけて投入しました。この実験の間に発生した一次燃焼後の排ガスと焼却灰、二次燃焼後の排ガスと飛灰、排ガス処理後の排ガスを採取し、有機リン化合物のみならず、リン元素及びダイオキシン類についても化学分析を実施しました。

図1. 廃棄物焼却実験の概要 図1. 廃棄物焼却実験の概要

有機リン化合物の挙動と焼却残さの性状

廃棄物中有機リン化合物の含有量に対する、一次燃焼後の残存量、二次燃焼後の残存量、排ガス処理後の残存率を図2に示します。廃棄物中の有機リン化合物は、キルン式一次燃焼炉において99.999%以上が分解され、その後の二次燃焼炉及び排ガス処理システムでさらに分解・除去されることが明らかとなりました。焼却残さ中有機リン化合物の含有量は、最大で0.068 mg/kgであり、DDTなどの廃農薬の分解処理技術1)に求められる排出目標(4.1~50 mg/kg)より2桁以上低い値でした。また、焼却残さからは、有機リン化合物の投入量に相当するリン元素が検出され、無機リンとして存在している可能性が示されました。さらに、ダイオキシンの排出濃度は、排ガスで0.10 ng-TEQ/m3以下、焼却残さで0.20 ng-TEQ/g以下であり、廃棄物処理法およびダイオキシン類対策特別措置法に求められる排出目標(排ガス: 0.10 ng-TEQ/m3および焼却残さ: 3 ng-TEQ/g)を満たしていました。今回の焼却実験装置を使用した廃棄物焼却実験の結果から、廃棄物処理法に準じた現行の廃棄物焼却は、有機リン化合物を確実に分解し、かつ、焼却残さ及びダイオキシン類の排出目標を満たす処理技術であることが実証されました2)

図2. 一次燃焼後、二次燃焼後、排ガス処理後の有機リン化合物の残存率
図2. 一次燃焼後、二次燃焼後、排ガス処理後の有機リン化合物の残存率

おわりに

これからも新たな製品や素材が開発され、これが地球規模で流通し、国内で使用済みとなり廃棄されることが予想されます。さらに、新たな再資源化技術による再生製品も流通し、国内で使用済みとなり廃棄されることも予想されます。このような未来に向けて、私たちは廃棄物の処理によって深刻な環境汚染が起こらぬよう、調査研究に引き続き取り組んで行きたいと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 1)環境省「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づく国内実施計画」(2005年6月)
  2. 2)Matsukami, H., Kose, T., Watanabe, M., Takigami, H. Pilot-scale incineration of wastes with high content of chlorinated and non-halogenated organophosphorus flame retardants used as alternatives for PBDEs. Sci. Total Environ. 493 (2014) 672-681.
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