循環・廃棄物のけんきゅう
2017年9月号

土の汚染起源をミクロの視点から明らかにする

上島 雅人

私たちの暮らしにおいて、「土」は欠かせない存在です。農作物を植えたり(「土壌」)、建造物を構築するための土台にしたりする(「地盤」)ほか、廃棄物を埋め立てた後の覆いに使うなど様々な用途があります。また、トンネル掘削などの工事によって多くの残土が発生することもあります。これらの「土」が汚染されていると、それらは私たちの健康や生活に甚大な被害を及ぼす可能性があります。私たちは、健全な土壌環境や地盤環境を維持するために、土の汚染の状態や性質を良く理解しておく必要があります。

土の中の有害物質の由来

イラスト:もとこ&しげる土は、しばしば工場や排水施設からの有害物質の漏洩、埋め立てた廃棄物中に含まれる有害物質の溶出などによって汚染されます。土を汚染する有害物質の種類としては、重金属等の無機物質・有機溶剤・農薬・油などが挙げられます。これら人為的な事業活動によって汚染された土は、人為由来汚染土と呼ばれます。一方、重金属等の無機物質は、自然界の岩石や堆積物中にも微量ながら存在します(土壌汚染対策法では、自然由来特例区域(後述)における特定有害物質として、ヒ素、鉛、フッ素、ほう素、水銀、カドミウム、セレン、又は六価クロムを指定しています)。このような天然に存在する有害物質によって汚染状態にある土は、自然由来汚染土と呼ばれます。

なぜ人為由来と自然由来を判別する必要があるの?

我が国の土壌汚染対策法は、2002年5月の制定時には主に工場および事業場で生じた人為的な土壌汚染を規制の対象とし、自然由来による土壌汚染は対象としていませんでしたが、しかし、2010年4月の改正時には、新たに自然由来汚染土も法の対象とすることとされました。

これに伴い新たな問題点が生じています。日本は火山国であり、たくさんの休廃止鉱山が分布しています。また、日本は四方を海に囲まれ、古くは海底堆積物だった地層が広く分布しています。そのような地層には重金属等の無機物質が含まれていることがしばしばあり、都市開発やトンネル工事などの大規模掘削によって、土壌汚染対策法の基準を超過する自然由来汚染土が、今後大量に発生することが懸念されています。一方で、自然由来汚染土に含まれる重金属類は低濃度のものや、安定である(溶出しにくい)ことが多く、人為由来汚染土に比べて地下水や周辺環境を汚染するリスクは低いと考えられます。そこで、土壌汚染対策法では自然由来による汚染区域を「自然由来特例区域」と呼び、人為由来の区域よりも緩和した対応を許しています。そのため、自然由来か人為由来かどうかについての判別方法や、自然由来の場合は対応をどこまで緩和するのが適切か、等については、さらに十分な検討が必要であると私たちは考えています。

何をする必要があり、実際にどのような研究をしているの?

私たちの研究グループでは、人為由来汚染土と自然由来汚染土に見られる特徴の違いを明らかにするとともに、簡単な分析・試験方法を組み合わせた、それらの判別法の確立を検討しています。最終的には、実務的な汚染起源の判定法の開発、および適切な利用・処分方法の構築を目指します。

現段階では、自然由来汚染土壌がどのような場所にどのような状態で存在するか、それらはどのような性質を持つかを明らかにするため、光学顕微鏡や電子顕微鏡を使って、土の微細構造、有害物質の有無を丹念に調べています。自然由来汚染土壌の特徴の一つとして、数万年前に海底に堆積した土壌の中に、ヒ素や鉛が硫化鉄鉱物(パイライト)とともに存在する傾向があることが分かりました。図1(a) は海底堆積物層の土壌断面を走査型電子顕微鏡で観察した像です。図1(b)~1(e)はそれぞれヒ素あるいは鉛、硫黄、鉄、ケイ素の濃度分布を表しています(薄い順に青→黄緑→黄→赤)。フランボイダルパイライトと呼ばれる、硫黄と鉄で構成されるキイチゴ状の微細鉱物に、微量のヒ素あるいは鉛が共存していることが分かります。フランボイダルパイライトは酸化されなければ水や酸に溶解しにくいため、それらを含む自然由来汚染土壌は、埋め立てた場合は共存するヒ素や鉛を溶出しないのではないかと考えています。

自然由来汚染土の中でも有害物質が溶出しない(安定な)ものは、たとえば盛土に用いるなど有効に利用することで、限られた国土における処分場の節約や、建設等で出た残土問題の解決に、大きく貢献するものと考えられます。

図1:(左上)電子顕微鏡像および元素濃度マッピング分析、(右上)ヒ素あるいは鉛、(左下)硫黄 、(右下)鉄 図1:ケイ素 図1 堆積岩中のフランボイダルパイライト(キイチゴ状黄鉄鉱)粒子の (a) 電子顕微鏡像および元素濃度マッピング分析((b) ヒ素あるいは鉛 (c) 硫黄 (d) 鉄および (e)ケイ素、Bar = 50μm、 青→黄緑→黄→赤の順に濃度が高くなります)。硫黄と鉄で構成されるフランボイダルパイライト粒子に、ヒ素あるいは鉛が濃集していることが分かります。その周囲は粘土で取り囲まれており、主にケイ素で構成されています。(協力:日本大学文理学部 金丸龍夫氏、竹村貴人氏)
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