循環・廃棄物のけんきゅう
2015年3月号

コンクリートの放射性セシウムによる汚染と除染

山田 一夫

コンクリートがらの処分

コンクリートは橋梁や建築物などいろいろな建設物に使用されています。年間およそ1億m3(2.3億トン)が生産(6割が民間の建築用)されている一方、産業廃棄物の年間発生量4億トンのうち、7500万トンを建設廃棄物が占め、その半分近い3500万トンがコンクリートがら(廃コンクリート)です。そしてこのコンクリートがらの多くは路盤材として再生利用されています。東日本大震災では、2000万トンの災害廃棄物が発生しましたが、コンクリートくず等(コンクリートとアスファルトコンクリートからなる)が半分を占めます。さらにその半分がコンクリートとすると500万トンのコンクリートがらが発生したことになりますが、これらも路盤材として有効利用されました。コンクリートは、毎年多量に生産され、廃棄される割合も多いのですが、廃棄されたがらはごみとなることなく有効利用されており、資源循環の優等生といえます。

しかし、福島第一原子力発電所事故により放射性セシウム(Cs)が放出され、事故当時に屋外にあった多くのものが汚染されました。コンクリートも例外ではありません。したがって、放射能汚染したコンクリートがらは簡単には再生利用できないことになり、濃度に応じて膨大な量のコンクリートを管理型最終処分場や中間貯蔵施設へ移動させなければならないことになります。もしコンクリートの除染ができれば廃棄物量を減少できるだけでなく、再生資材として有効利用できることになります。そのために放射性Csに汚染されたコンクリートの除染に関する研究を行っています。

放射性セシウム汚染の深さの測定

図1 実験室で作製したコンクリートへの137Csの浸透 図1 実験室で作製したコンクリートへの137Csの浸透
上:コンクリート片(2×5cm、右が浸透面)
中:β線ラジオグラフとの合成像
下:137Csの浸透状況(明るいほど高濃度)

放射性同位元素である137Csを用いて実験室で作製したコンクリートへ浸透する深さを調べた例を図1に示します。137Csはβ崩壊する元素で、β線とγ線を放出します。β線は物質中をより進みにくく、γ線はより進みやすい性質を持っています。137Csから発生したβ線はコンクリート中を0.1~0.2mm程度しか透過できません。このようなβ線の性質を利用して、137Csを浸透させたコンクリート片をβ線に感度を持つプレートに載せ影絵を採る要領で感光させラジオグラフを撮ります。図1をみると右の137Csの浸透面から、奥に向かって、大小の骨材を避けながら137Csが浸透している状況が分かります。実験室で一般的な強度の湿った状態のコンクリートを22日間、137Cs溶液へ浸漬させると、最大4cm程度の137Csの浸透があることが分かりました。β線ラジオグラフでは、β線の強度が強いほど、周辺へ滲み出したような撮影結果が得られるため、明るい部分、とくに試験体の外側では、拡散した像となっています。乾燥したコンクリートでは6時間で同程度の浸透深さとなりました。

放射能汚染したコンクリートの放射性セシウム除染の深さ

図2 道路側溝蓋のコンクリートへの放射性Csの浸透 図2 道路側溝蓋のコンクリートへの放射性Csの浸透
(側溝蓋から2×5×0.3cmの板を切り出し測定)
左:β線ラジオグラフとの合成像(上が道路面)
右:137Csの浸透状況(明るいほど高濃度)
図3 空間線量率と放射性Csの浸透深さ 図3 空間線量率と放射性Csの浸透深さ

では、現実におけるコンクリートの放射能汚染の深さはどの程度でしょうか?飯館村の道路側溝のコンクリート製の蓋を採取し、上記と同じ手法でβ線ラジオグラフを撮りました。その結果の一部を図2に示します。実験室の結果とは異なり、放射性Csはごく表面に留まっていることが分かります。図3に空間線量率と、地面と水平な面のコンクリートへの放射性Csの浸透深さの関係を示します。両者の相関を調べると、対数を用いた式で表現できる関係がありました。放射性Csの浸透深さの測定は、β線ラジオグラフでの周辺に滲み出た像となるため、強度が強いほど外部に拡散した信号も拾っていて、精度の検証は今後必要ですが、空間線量が高い地域でも3~4mm程度と汚染は表面に限定されていることが分かります。文部科学省の空間線量モニタリングの結果では最大で30μSv/hを超えるような地域もあり、今後そのような地域での調査も必要ですが、同様な条件のコンクリートの汚染は表層に留まっていることが予想できます。ただし、実験室では数cmの浸透深さとなっており、現場のコンクリートとは異なり、10倍程度の浸透深さになっています。現場のコンクリートでもこのような浸透深さが大きいものはないのか、今後、さらに検討を重ねる予定です。

放射能汚染したコンクリートの除染

コンクリートの汚染を除去するにはウォータージェットなどによる物理的な研削が必要です。この際、コンクリートから放射性Csの再溶出が懸念されます。そこで、採取したコンクリートを粉砕し、水に浸漬・撹拌し、放射性Csの溶出を調べました。その結果、溶出液では放射性Csが検出されず、コンクリート中の放射性Csは水に移行しないことがわかりました。すなわち、ウォータージェットによりコンクリート表面の放射性Csを研削除去した後に、研削物を回収すれば周辺への再汚染はないと考えられます。ただし、1mol/lのKCl溶液やNH4Cl溶液などで溶出させると数割の放射性Csがコンクリートの粉砕物から溶出しました。コンクリートに用いる骨材には粘土も少量含まれています。粘土に放射性Csは強く吸着されていますが、カリウムイオンやアンモニウムイオンによって一部が置換され、液相に放出されることもわかっています。コンクリートの粉砕物でも粘土と同様の挙動が認められたので、コンクリートに含まれる粘土分などに放射性Csが強く吸着されている可能性を考えることができます。

イラスト福島第一原子力発電所の事故に由来する放射性Csでコンクリートがどのように汚染されているのか、実験室と現実のコンクリートを比較しながら調べた結果を説明し、多量にあるコンクリートの除染について提案しました。汚染の機構についてはいまだに不明確な点もあり、今後も研究を継続する予定です。また、一定濃度以上に放射性Csを含有する可燃性廃棄物の焼却灰など(指定廃棄物)を鉄筋コンクリート製の処分場で最終処分する計画もあり、処分場の安全性評価にもコンクリートへの放射性Csの情報は役立ちます。

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