2010年2月22日号
排水処理で発生する汚泥を減らして環境保全佐野 彰
現在、生活排水や下水の生物処理として、活性汚泥法が広く用いられていますが、汚水を浄化する過程で、廃棄物となる余剰汚泥が発生します。 廃棄物系バイオマスの中でも汚泥の発生量は多いことが知られており、処理コストがかさむだけでなく、汚泥処理に伴うCO2排出による地球環境の悪化も懸念されています。 そのため、様々な汚泥減量化技術や汚泥発生抑制技術が開発され、実証試験も行われています。 汚泥減量化技術とは、発生した汚泥を微生物が食べやすいように生分解化を施し、その生分解化した汚泥を再度活性汚泥により処理することで、余剰汚泥量を減らす技術です。 一方、汚泥発生抑制技術とは、汚泥の発生自体を減らす技術です。汚泥減量化技術の課題としては、技術導入によって高くなる汚濁負荷(2007年3月5日号「生活排水」参照)に対して排水処理性能を維持することにあり、一方、汚泥発生抑制技術の課題としては、安定運転方法の確立が挙げられます。また、これらの技術導入のコストも普及の妨げになっています。そこで、汚泥減量化や汚泥発生抑制技術の性能やコストを明確にし、水・大気環境への影響を総合評価することが実用化・普及への橋渡しのために必要と考えています。 今回は、バイオ・エコエンジニアリング研究施設で行っている汚泥減量化技術、汚泥発生抑制技術に関する研究を紹介します。 汚泥減量化技術にはオゾン処理および遠心振動ミル破砕1を採用しました。 オゾン処理はオゾン(O3)の持つ強い酸化力によって、またボールミル(固い球体と原料を容器に入れ、回転を加えることで原料を粉砕する装置)の一種である遠心振動ミル破砕は機械的な破砕によって、汚泥を形成する微生物の細胞膜を破壊し、細胞質を溶出させる技術です。 汚泥発生抑制技術には竹炭(2009年2月23日号「ゴミから炭作りできる?」参照)またはシラス(火山灰)担体の添加を採用しました。 竹炭には特定微生物を優先化する効果が2、シラス担体には微生物を捕食する原生動物を安定的に共生させる効果があるといわれています。これらの技術は、竹炭やシラスなどの有効利用にも貢献できる利点があります。 これら4つの技術を導入した排水処理実験(写真1と2)を行い、比較検討しました。排水処理実験方法には、嫌気・好気処理(2007年3月5日号「排水を毎日きれいにする小さな装置」参照)を活用した活性汚泥法を使用しました。 以下、この研究のメインテーマである汚泥減量化と排水処理性能の維持の「両立」に関する研究成果を説明していきます。なお、排水処理性能については、枯渇が懸念されているリン(2008年5月26日号「排水からリン資源を回収するシステム」参照)の除去に重点を置いてまとめました。 泥減量性能および排水処理性能の比較を表1に示します。水質汚濁の指標であるBOD(生物化学的酸素要求量)・T-N(全窒素濃度)・T-P(全リン濃度)の除去性能で排水処理性能を比較しました。また、汚泥減量化・汚泥発生抑制技術を導入していない実験系での汚泥発生量に対する技術導入した実験系での汚泥発生量の割合で汚泥減量化性能を比較しました。 汚泥減量化性能の比較オゾン酸化(Run 2)の汚泥減量化率は93 %と高く、汚泥減量化性能に優れており、これまでの知見と同じ結果となりました。遠心振動ミル破砕(Run 1)の汚泥減量化率は52 %にとどまっていますが、処理条件の適正化によって性能が向上することが期待されます。シラス担体添加(Run 4)では汚泥発生抑制効果は得られませんでしたが、竹炭添加(Run 3)では汚泥減量化率61 %の効果が得られました。「なぜ竹炭を添加すると汚泥が減るのか?」という機構解明も今後の研究展開として考えています。 排水処理性能の比較いずれの実験系においても、BODおよびT-N処理性能の悪化は見られませんでした。 竹炭にはリン吸着作用があるので、Run 3においてT-Pは低くなりました。 Run 1においては極めて高いリン除去性能が得られました。 これは、遠心振動ミルに鋼球を使用しており、汚泥破砕とともに摩耗した鉄が供給され、リンの凝集が引き起こされたためと考えています。 鋼球を使用した遠心振動ミル破砕では、汚泥減量化とともに、鉄供給によるリン回収が可能となることが示唆され、汚泥減量化と排水処理性能維持を両立した応用技術として期待できます。 今後、設備費・運用費などの見積もりや、これらの技術によってどれだけCO2が削減できるのかを算出することで、汚泥再資源化技術(2008年11月17日号「ガス化―改質技術による廃棄物系バイオマスからのエネルギー回収」、2007年8月20日号「ごみから水素エネルギーをつくり出す」参照)とも比較できる総合評価ツールの確立を目指していきます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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