循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2009年6月8日号

都市鉱山と金属資源のリサイクル

中島謙一

 近年、BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)の経済発展や資源メジャーによる資源の寡占化など、枯渇性資源の需給環境は大きく変化しています。なかでも、最近、注目を浴びているのが、『レアメタル』です。レアメタルとは、ある特定の金属の名称ではなく、「地球上にその存在が稀であるか、又はその抽出が経済的・物理的に非常に困難な金属」の総称です。中にはチタンやシリコンのように、地殻での存在量は莫大なのに、鉱石の製錬が大変であるが故に、「レア」とされている金属もあります。レアメタルは、鉄、銅、アルミ等の汎用的な金属(レアメタルに対して『ベースメタル』と言います)に比べると流通量は圧倒的に少ないのですが、ステンレスなどの基礎素材産業からハイテク分野の産業 (薄型テレビの電極材、高性能磁石、高性能触媒等) に至るまで幅広く利用されており、日本の産業にとっては不可欠な原材料です。

 皆さんもご存じの『リサイクル』は、資源の循環利用を促進して、資源の安定供給を確保する為の1つの手段でもあります。現在、レアメタルのリサイクルの中でも、特に『都市鉱山』からのリサイクルが注目を浴びています。都市鉱山とは、簡単に説明するならば、私たちの身の周りに蓄積された携帯電話などの家電製品や建築物などの構造物を再生可能な資源の山とみなす考え方です(2009年1月26日号「都市鉱山」参照)。この都市鉱山からの金属資源のリサイクルにおいて注目を浴びているのが、携帯電話などの小型の電子機器を含めた電気電子機器廃棄物(「e-waste」とも呼ばれます)に含まれる貴金属やレアメタル等の金属資源のリサイクルです。

 さて、概説が長くなりましたが、今回は、(1)使用済み携帯電話に含まれる金属、そして、(2)金属の回収可能性について、もう少し掘り下げて説明したいと思います。

 まず、(1)使用済み携帯電話に含まれる金属とそのリサイクルについて説明します。携帯電話は、プラスチック、ガラス、そして、金属からできています。金属としては、鉄、銅などのベースメタルの他に、貴金属である金、銀、プラチナ、レアメタルであるニッケル、クロム、タングステン、インジウム等が含まれています。携帯電話におけるこれらの物質の含有量の一例としては、携帯電話(104g)あたりに、プラスチックが72g、ガラスが8g、銅が12g、鉄が7g、マグネシウムが3gであり、この5つの物質で約98%と大部分を占めます。一方、銀は11mg、金は7mg、タングステンは0.55gと貴金属やレアメタルの含有量は、携帯電話の重量に対してはごく微量です。では、なぜ携帯電話からの貴金属、レアメタルのリサイクルが注目されているのでしょうか? 1つの理由としては、天然鉱石と比較した場合の含有率の高さが挙げられます。例えば、前述の携帯電話中の金や銀の含有率は、天然鉱石中の含有率よりも高くなっています。このように、貴金属やレアメタルの中には、天然資源よりも濃縮された状態で使用済み製品の中に存在しているものもあります。これらを回収する事で、廃棄物の発生抑制に加えて、天然資源の消費量の削減やそれに伴うエネルギー消費や環境負荷の削減に繋がるのではないかと期待されています。

環環ナビゲーター:りえ

 次に、(2)製錬プロセスにおける金属の回収可能性について説明します。スチール缶などから回収される鉄系のスクラップは、鉄鋼製錬プロセス(主に電炉)において、溶解されて再び鉄原料として利用されています。一方、銅や鉛や亜鉛などの非鉄系のスクラップは、非鉄金属製錬プロセスにおいて、非鉄原料として利用されています。実は、非鉄金属製錬プロセスと一口に言っても、予備処理、乾式製錬、湿式製錬、電解製錬とその種類は多く、また、銅や鉛といった目的金属の種類に応じて、そのプロセスの組み合わせは多岐にわたります。また、その組み合わせに応じて、回収可能・不可能な金属は異なってきます。

 例えば、前述の使用済み携帯電話は、前処理によって筺体であるプラスチック部分を除去した後、銅の乾式製錬(溶鉱炉、転炉)工程や電解精製工程、更には副産物からの金属回収工程等を経て、銅や金、銀、白金族などが金属や中間生成物として回収されています。乾式製錬工程では、スラグ(鉱さい)を生成する事で目的の回収元素以外の不純物を酸化除去しますが、例えば、銅の乾式製錬プロセスである転炉では、携帯電話に含まれる鉄やタングステン、インジウムは酸化除去されスラグに分配されます。現在、スラグに分配されたこれらの元素は、金属や中間生成物として回収されていませんが、ここに新たなる回収技術の導入の余地があると考えられます。

 最後に、上述の(1)と(2)をまとめて、銅製錬(転炉)における携帯電話に含まれる金属元素の分配傾向を整理したものが下図です。専門的な解説は割愛させて頂きますが、図中で、縦軸はメタル相とスラグ相の分配傾向を熱力学的な分配係数で示し、横軸はメタル相とガス相の分配傾向を蒸気圧の比でそれぞれ示しています。また、円の大きさは、元素の含有量を示しています。なお、この図は分配傾向の強度を示すもので、投入された元素すべてがメタル相あるいはスラグ相に分配されるわけではありません。前述の通り、銅転炉では、鉄やタングステン、クロムなどは酸化除去(スラグに分配)され、現状では回収されていません。したがって、携帯電話からタングステンやクロムを回収する場合には、解体・選別工程における事前除去や抽出技術の導入が必要となる事がわかります。

携帯電話に含まれる元素の熱力学的な分配傾向(銅転炉)
<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 中島謙一ら:関与物質総量(TMR)に基づく使用済み携帯電話のリサイクルフロー解析、日本LCA学会誌、2(4)、pp.341-346、2006
  2. Nakajima, K. et al.: Evaluation method of metal resource recyclability based on thermodynamic analysis, Material Transactions, 50(3), pp.453-460, 2009
関連研究 中核研究1 関連研究 中核研究2 関連研究 中核研究4
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー