循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年1月21日号

ごみ処理とリサイクルの費用はいくらか

田崎智宏

「リサイクルはしてはいけない。なぜなら、お金がかかるから。」といった意見があります。果たして正しいでしょうか。

 そもそも、市場経済がうまく機能しないから、法律を作って、規制でリサイクルを進めているモノがあります。このようなモノについては、お金とは異なる物差しでリサイクルすべきかどうかが判断されるべきでしょうが、だからといって、 リサイクルにいくらお金をかけてもよいとはいえないでしょう。となると、リサイクルにいくらお金がかけられているかを明らかにし、社会としてどれ位であればお金をかけてよいかを議論して合意していく必要があります。

 しかし、意外に思われるかもしれませんが、リサイクルの費用も、ごみ処理の費用も細かいところまではよく分からないのが実状です。例えば、家庭から出るごみは一般廃棄物と呼ばれ、この費用はリサイクル・ごみ行政を担当している環境省が「一般廃棄物実態調査」という調査で把握しています。 この調査によれば、平成17年度においては、一般廃棄物のごみ処理事業経費は1兆9,107億円であり、1年間に国民1人あたりで約1万5千円の費用がかけられていることが分かりますが、調査の費目が細分化されていないため、ごみの収集・運搬、リサイクル、リサイクル以外の中間処理、埋立処分にそれぞれいくらかけられているかが分かりません。

 それでは、当センターの研究成果を交えつつ、日本におけるごみ処理とリサイクルの費用を概観してみましょう。一般廃棄物は自治体が処理していますが、この基準は、自治体によるごみ処理やリサイクルにどれくらいの費用がかけられているかを自治体ごとに明らかにしようとするものです。この基準をもとに、多くの自治体で費用情報が集められることが期待されます。

 一方、一般廃棄物会計基準が対象としているのは実際にかけられた費用です。お金に換算できない環境への悪影響や環境を守るための対策費用については目に見える形で集計されません。そこで、当研究センターでは、これらを一体的にとらえた新しい廃棄物会計の枠組みを検討しています。 また、容器包装リサイクル法など、国全体として進められている政策にかかる費用を把握することも重要です。これらについては、資源循環会計として、国全体としてのリサイクルや、自治体、民間業者におけるごみ処理にかかる費用を集計する枠組みを検討しています。

 そこで、費用情報を集めるところから考えることになりますが、どのような費用情報を集めるかは、費用データをどうまとめるかに関わってきます。環境省は平成19年6月に「一般廃棄物会計基準」というものを定めました。

 まず、収集などの活動別の費用を推計した結果を紹介します。この結果によれば、平成16年度においては収集・運搬に38%、焼却やリサイクルなどの中間処理に52%、埋立処分に10%の費用がかけられていると計算されました。 この値には、日常的に必要な費用(運転・維持管理費)だけでなく、施設をつくるときの費用(建設・改良費)も含まれています。この費用をトンあたりの単価に換算してみると、収集・運搬は2万2千円/トン、中間処理は2万1千円/トン、埋立処分は5万円/トンと計算されました。 収集・運搬はほとんどが運転・維持管理費で、過去8年間はあまり変化がありません。一方、中間処理と埋立処分の運転・維持管理費は徐々に増加しており、過去8年間で1.5〜2倍に増加しています。 増加の原因は、リサイクルを含め廃棄物処理により厳しい規制がかけられるようになったためと考えられます。また、最近では施設の整備が充実してきたため、建設・改良費よりも運転・維持管理費の占める割合が増えてきており、運転・維持管理費をより意識する必要がでてきました。 なかには、施設の建設から運転までを含めた長期間の費用が安くなるように、長期間の包括的な契約をプラントメーカー等と結ぶ自治体も出始めています。 これにより、貴重な税金がより有効に活用されることが期待できます。それから、埋立地の処分単価は5万円/トンと大きな値となっていますが、このうち3.8万円が建設・改良費分であり、この値の解釈には注意が必要です。この値は、ある年にかかった埋立処分場の建設費をその年に確保した埋立空間量で除して求めています。 埋立処分場が使われる期間が十年単位であることを考えると、現在埋め立てされている処分場の処分単価の建設・改良費分は、現在の値ではなく十年程度前の値を使うべきです。処分単価の建設・改良費分は平成8年度には約8千円/トンであったことから、この値と運転・維持管理費と足し合わせた約2万円が、 現在廃棄物1トンを埋立処分するのにかかっている費用だと考えることができます。逆に考えれば、将来的には運転・維持管理費を加えた埋立処分単価が5万円/トンとなっても不思議ではないことを示しています。将来の処理費用が高騰することを見据えつつ、ごみの減量が適切になされることが重要です。

 最後にリサイクルの費用について見てみましょう。現在、家庭から出てくる飲料容器やレジ袋などをリサイクルする容器包装リサイクル法というものがあります。この法律の改正に向けて行われた調査では、容器包装廃棄物のリサイクルに係る全国的な費用が推計されています。これによると、 容器包装廃棄物9品目を収集する費用に1,714億円、このうちリサイクルに適したものを選別して保管する費用に1,342億円、総額して3,056億円が自治体にかかっていると推計されています。この費用の単価を品目別に見ると、例えば、びん9.0万円/トン、プラスチック製容器包装19.2万円/トン、紙製容器包装9.0万円/トンと計算されます。 平成17年度のごみ処理費用をごみの総排出量で除して得られる3.3万円/トンという一般廃棄物全体の値と比較すると、非常に高いことが分かります。

 このようにごみ処理やリサイクルにいくらお金がかけられているかの具体的な情報が明らかになってきたので、これからは、必要なごみ処理とリサイクルの水準を保ちつつ、これらの費用をいかに減らすことができるか、お金に換算しにくい資源を大切に使う効果をどのようにはかるかなどが研究される必要があります。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 田崎智宏 (2007) ごみ減量・再資源化に係る廃棄物処理費用の現状と課題、都市清掃、60(280)、pp.549-554
  2. 森口祐一、橋本征二、田崎智宏、藤井実、村上進亮 (2005) マクロ環境会計における資源循環の表現の枠組み−容器包装リサイクルを中心として−、第33回環境システム研究論文発表会講演集、pp.169-177
  3. 橋本征二(2007)廃棄物会計といわゆる環境会計の統合に向けて、廃棄物学会誌、18(4)、pp.222-230
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