循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2006年11月20日号

ジュンカンガタシャカイってどんな社会?

橋本征二

 皆さんは「ジュンカンガタシャカイ(循環型社会)」という言葉を聞いたことがありますか。そう、私たちの研究センターの名前にも採用されている言葉です。2000年には循環型社会形成推進基本法という法律もできました。循環型社会を形成し推進するための基本法です。 法律まで作って推進しようとしているこの「循環型社会」とは、いったいどんな社会なのでしょうか。

 「循環」という言葉を広辞苑で引いてみると、「ひとまわりして、また元の場所あるいは状態にかえり、それを繰り返すこと」とあります。循環とは、まわることです。ということは、「循環型社会」=「まわる型社会」? さて、皆さんは何がまわる社会を想像しますか。 つくば市(研究所の所在地)には循環バスが走っています。お金も世の中を循環しています。そう、まさに何がまわるかで、循環型社会のイメージは異なったものになります。

 もちろん、法律などで使われる「循環型社会」には既に定義があります。しかし、私たちは、循環型社会のビジョンを研究する一環として、世の中の循環型社会にはどのような概念があるのか、循環型社会の理念は何か、といったことついても研究しています。

 循環型社会という言葉が行政の中で初めて用いられたのは1990年とされます。環境庁(当時)が「環境保全のための循環型社会システム検討会」という検討会を設置しました。この検討会のとりまとめた報告書が、循環型社会の原始形と言ってもいいでしょう。少し小難しいですが引用してみます。

 「「持続可能な開発」を達成するには、地球の大気、水、土壌、野生生物といった資源」や「これらが織り成す生態系(エコロジー)の大循環に適合するような経済活動の在り方を考え、具体化していかねばならない。」「自然生態系の循環とは掛け離れた」人間の経済活動を「自然生態系と適合させるためには、 廃棄より再使用(同じものをもう一度使うこと)・再生利用(原料としてもう一度使うこと)を第一に考え、新たな資源の投入をできるだけ押さえることや、自然生態系に戻す排出物の量を最小限とし、その質を環境を攪乱しないものとすることが必要である。こうした経済社会の在り方は「循環型社会」と呼ぶことができよう。」

 さて、この説明では何が循環していたでしょうか。2つのものが循環していました。図を見てください。

出所:中央環境審議会循環型社会計画部会(第11回)資料2に加筆  一つは、「生態系の大循環」「自然生態系の循環」などの表現に見られるような「自然の循環」です。自然の循環には、炭素、窒素、水、空気などの物質の循環のほか、季節の移り変わりや生物の生まれ変わりの過程といった状態の循環も含まれるでしょう。言い換えれば、この「循環」には、 そうした循環を乱さないように資源の採取や環境への負荷をしっかりと制御していこうというメッセージが込められています。では、自然の循環が乱された状態とはどのような状態でしょうか。その典型例として気候変動問題(地球温暖化問題)があります。これは、人間が大気中に捨てる炭素(二酸化炭素)が自然界の炭素の循環を変化させ、 その結果気温が上昇し、海水の循環などにも変化をもたらして気候の変動が引き起こされるという問題です。その他のさまざまな環境問題も、基本的には自然の循環が乱されることによって生じていると言えます。

 さて、もう一つの循環ですが、これは「再使用」「再生利用」「資源の循環利用」などの表現に見られるような「経済社会における物質循環」でした。この「循環」には、資源を経済社会の中でできるだけ循環=リサイクルして利用していこうというメッセージが込められていると言えます。

 もしあなたが循環型社会という言葉を知っていたとしたら、おそらくこの「経済社会における物質循環」、つまりリサイクルをまずイメージしたのではないでしょうか? 実は、私たちのセンターも廃棄物やリサイクルのことを主に研究しており、自然の循環自体を研究対象としているわけではありません。

 しかし、廃棄物の処理やリサイクルは、「自然の循環」を乱さないように、環境への負荷を少なくすることを上位の目的とするものなので、常に意識する必要はあります。もう一つ重要なのは、適切な廃棄物処理やリサイクルだけで適切な自然の循環を保つことは難しいということです。図にあるように、 人間は自然から資源を採取し、使ったものを自然に還すという行為を毎日営んでいます。資源を使わない日はないし、ごみを出さない日もありません。ここで「ごみ」と言っているのは固形状のものだけではありません。液体状のごみ、気体状のごみも出しています。トイレに行って水を流したり、 台所で食器を洗ったりすれば液体状のごみが出ますし、車に乗れば二酸化炭素や窒素酸化物などの気体状のごみが出ます。これらは日常生活であまり認識できませんが、確実に自然界に戻されているものです。資源を消費すれば、それは必ずごみとなるわけですから、そもそも資源の消費を減らすことが重要なのです。

 さて、ここまで見てきた「自然の循環」や「経済社会における物質循環」の他にも、「循環」という言葉にさまざまな人がさまざまなメッセージを込めています。例えば、「環境と経済の好循環」というスローガンがあります。この場合は、経済がよくなることが環境を良くし、環境が良くなることが経済を良くする、 そんな経済社会を目指しましょうというメッセージになっています。さらに、リサイクルを進めていくためには、人の関係や情報の「循環」とでもいうべきものが重要であるとの指摘もあります。社会を作っていくためにはやはり仲間と情報のネットワークが必要なのです。一人ではたいしたことはできません。 また、輪廻に関連づけて循環型社会の精神面が論じられることもあります。「MOTTAINAI(もったいない)」はケニアのワンガリ・マータイさんがノーベル平和賞を受賞してから国際語にもなりつつあります。

 このように、「循環」という言葉にどのような意味を込めるかで、循環型社会のメッセージは変わってきます。さて、あなたにとってのジュンカンガタシャカイとは?

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 橋本征二ほか:循環型社会像の比較分析、廃棄物学会論文誌、17(3)、pp.204-218、2006
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