けんきゅうの現場から
2024年2月号

リチウムイオン電池の発火・火災に見る関係者間のギャップ
-ライフサイクル全体での対応と伝え方の大切さ-

寺園 淳

リチウムイオン電池を原因とするごみ処理での発火・火災

近年、ごみの処理施設や収集車でリチウムイオン電池を原因とする火災事故やボヤ騒ぎが多発しています。この問題を調べていると、リチウムイオン電池の取扱いは、メーカー、消費者、およびごみ処理事業者(自治体、回収・リサイクル団体)の間で大きなギャップがあるように感じます。

リチウムイオン電池は代表的な小型充電式電池として現代の日常生活に欠かせない便利なものとなっており、今やその恩恵を受けていない人はいないといえるでしょう。例えば、携帯電話、パソコン・タブレット端末に始まり、掃除機、電気かみそり、携帯ゲーム機、ワイヤレスイヤホン、モバイルバッテリーなど多様な電気電子機器の中に使われています。

リチウムイオン電池は軽量でありながら、高電圧・大電力、しかも自己放電率が少ないという、すぐれた性質を持っています。一方で、物理的な衝撃や過充電などを与えると熱暴走を引き起こす危険性があるため、国やメーカーは製造不良防止や保護回路実装などの製品安全に最大限の注意を払っています。しかしながら、そのリチウムイオン電池を使っている製品は不燃ごみ・粗大ごみに頻繁に混入していて、ごみの破砕処理の過程でしばしば発火を引き起こしているのが実態です。場合によっては、大きな火災事故となって、数億円の復旧費用と数か月間の収集停止のように市民生活に大きな影響を与えることがあります。ハンディ扇風機やモバイルバッテリーのように外側がプラスチックの製品も多いので、消費者が間違えてプラスチック製容器包装として排出して収集され、リサイクル施設で火災事故を発生する事例もあります。

リチウムイオン電池は物理的な衝撃を与えると発火するため、「衝撃を与えてはいけない」のはメーカーにとっては当たり前のこと(常識)です。しかしながら、そのリチウムイオン電池は「ごみ処理の過程で破砕されている(=物理的な衝撃が与えられている)」という非常識がまかり通っているのが、ごみ処理の現場の日常なのです。

LIBくん(寺園個人のキャラクターで、リチウムイオン電池=Lithium-Ion Batteryから名付けました)
LIBくん(寺園個人のキャラクターで、リチウムイオン電池=Lithium-Ion Batteryから名付けました)

廃棄方法に関するメーカー・法律と消費者でのギャップ

どうしてリチウムイオン電池の取り扱いについて、このようなギャップがあるのでしょうか。その理由は、生産(製品安全)と廃棄(リサイクル・ごみ処理)の世界が遠く離れていて、いまだに廃棄時を考えた製品設計などができていないためと考えています。まず、廃棄方法について見てみます。

リチウムイオン電池について廃棄時の安全対策を国やメーカーに問うと、必ず「JBRCによる自主回収がある」という返事が返ってきます。これは、資源有効利用促進法という法律で、電池と使用製品のメーカー・輸入事業者などにリチウムイオン電池を含む小型充電式電池の自主回収が義務付けられていて、多くのメーカーなどがJBRC(Japan portable rechargeable Battery Recycling Center)という一般社団法人を通じて小型充電式電池のリサイクル活動を共同で行っていることを指しています。それに沿って、「正しく廃棄を」「消費者への周知・啓発が必要」と言われることもよくあります。あたかもJBRCによる自主回収に協力しない消費者の方が、常識を守っていないように受け取れる表現なのですが、これには大いに違和感を覚えます。

「正しい廃棄」と言われるJBRCによる自主回収とは、具体的に消費者にどのようなことを求めているのでしょうか。まず、表示がないことも多い製品からリチウムイオン電池が入っていることを探し出ます。次に、外れないことも多い製品からリチウムイオン電池をメーカーのホームページ(HP)などを参考に取り外します(取り外せない場合はメーカーや自治体に問い合わせます)。そして、JBRCのHPでメーカーがJBRC会員であることと排出協力店(電器店)を確認して、何の案内もない電器店(回収ボックスがレジの下に隠れていることが多い)で店員に対して、勇気を振り絞って「廃棄したいリチウムイオン電池を預かって下さい」と言うのです。電池の絶縁をしてから持っていくことも忘れてはいけません。なお、モバイルバッテリーだけは、製品ながらリチウムイオン電池を取り外す必要がありません。

この「正しい廃棄」を確実にできる人がどれだけいるでしょうか。私にはメーカーがJBRCを通じて行っている現在の自主回収への協力が無理なゲーム(無理ゲーというそうです)とも言えるレベルで、非常識のように思えて仕方ありません。

なぜ消費者にとって自主回収への協力がこんなにも難しくなっているのでしょうか。理由はいろいろあるのですが、資源有効利用促進法施行当時の2001年頃には、ほとんどのリチウムイオン電池は携帯電話(ガラケー)やデジカメのように簡単に取り外せるものばかりだったのに対して、現在ではワイヤレスイヤホン・携帯ゲーム機・ハンディ扇風機のように簡単に外せない製品が多くなり、法律もその変化への対応をしてこなかったことが大きいです。製品の変化だけでなく輸入事業者への対応もできていないため、リサイクルマーク等の表示(リチウムイオン電池の有無を示す表示)もない製品が多くなっています。また、法律では回収率の目標が定められていないため、メーカーにとってたくさん回収しようという動機づけが弱いことの影響もあると考えられます。

このように、近年のリチウムイオン電池使用製品の普及や消費者の理解や協力の必要性を考えると、もっと「常識」的な回収の仕組みを作っていく必要があるのではないでしょうか。

安全性の情報に関するメーカーとごみ処理現場でのギャップから、ライフサイクル全体での対応へ

次にリチウムイオン電池の安全性や情報に関しても、メーカーのような動脈とごみ処理現場のような静脈との間で多くのギャップを感じます。

電池メーカーは原則として、機器(製品)メーカーにしかリチウムイオン電池の供給をしません。これは他の電池にはない、リチウムイオン電池の特徴で、充電制御ICなどの保護回路を持って、機器全体としてリチウムイオン電池の安全性を担保する必要があるためです。一部を除いて電池メーカーは信頼できる機器メーカーにしか供給をしないので、一般の方はもとより、私たちのような廃棄物処理の安全を考える研究者にとっても電池の現物や情報を得ることが極めて困難です。

しかし現実には、前述のような自主回収がされずに廃棄されたリチウムイオン電池は、その多くが自治体のごみ処理施設に運ばれます。自治体にはリチウムイオン電池や使用製品の安全性について、ほとんど情報がありません。破砕して発火した後で処理施設を停止して、リチウムイオン電池の燃えかすなどを探し出し、どのように扱えばよいか試行錯誤しています。

残念ながら、動脈と静脈との間には、リチウムイオン電池に関する情報のギャップが大きくあります。

リチウムイオン電池の安全な取扱いに関する情報が、メーカーや業界団体から自治体や研究者に提供されることはほぼありません。もちろん、廃棄物処理法での一般廃棄物処理責任には自治体にあります。しかし、不燃ごみの処理はまず破砕という静脈の常識と全く相容れないリチウムイオン電池について、現在の自主回収が完全にできない以上、メーカーはもっと関心を持って、廃棄までの安全のための情報提供や協力をすべきではないでしょうか。

これだけリチウムイオン電池が社会に不可欠な道具の一つになり、その危険性も認識されつつある現在、メーカーから販売店(ネット販売も含む)、消費者、リサイクル・処理施設の全員が関係主体です。循環経済が求められる今、情報提供なく危険な処理を自治体に任せるのでなく、メーカーや消費者も関心を持って、関係者全員の連携でライフサイクル全体での対応を考える必要があります。

これからの伝え方は

正しい廃棄や回収方法を伝えるためには、どのようなことが必要でしょうか。

リチウムイオン電池の廃棄を考える時、まずはわかりやすさが最低条件にはなります。リチウムイオン電池の用語は、同じ意味で一般に馴染みがないリチウム蓄電池やリチウムイオン蓄電池が法律で使われたり、紛らわしいリチウム電池(一次電池のコイン型のことが多いが、リチウムイオン電池を含む場合もある)などの名称も使われたりしますので、わかりやすい名称に統一するのが望ましいです。JBRCの排出協力店というのも、一般の人が「あそこのこと」とわかるくらいの理解が必要です。日本では一次電池(乾電池など)と充電式電池の回収方法が異なりますが、縦割りで複雑にするのではなく、EUのようにすべての電池は原則として一括回収する方が消費者の理解は格段に進むでしょう。

また、協力可能な意味のある方法でないといけないとも思います。消費者にとってハードルの高い自主回収でなく、「なるほど、それならできる」と思ってもらえる実施可能な回収方法が必要です。法律で決められた「やってる感」でなく、消費者を含む関係者が協力しやすい「納得感」を伴う回収方法によって、安全な循環経済ができるのではないでしょうか。

わかりやすさと意味があるもの、これは私たちの研究や成果発信にも当てはまります。自己満足で研究せず、わかりやすさとよりよい社会の改善に意味がある成果を出さねばなりません。

オンラインマガジン環環も来月の3月号で終わりを迎えます。長年のご愛読をありがとうございました。私たちはわかりやすく、社会に意味がある伝え方ができたでしょうか。4月からは形を変えて研究所からの発信になる予定です。今後ともご愛読とご声援をお願い申し上げます。

リチウムイオン電池が入った家電製品の例
<もっと専門的に知りたい人は>
  • Terazono A., Oguchi M., Akiyama H., Tomozawa H., Hagiwara T., Nakayama J. (2024) Ignition and fire-related incidents caused by lithium-ion batteries in waste treatment facilities in Japan and countermeasures. Resources, Conservation & Recycling, 202 (107398), 1-13
  • 寺園淳 (2022) リチウムイオン電池の循環・廃棄過程における火災等の発生と課題. 廃棄物資源循環学会誌, 33 (3), 214-228
資源循環領域 オンラインマガジン「環環」 資源循環領域 HOMEへ戻る 国立環境研究所 HOMEへ戻る 近況 循環・廃棄物の基礎講座 循環・廃棄物のけんきゅう 循環・廃棄物の豆知識 けんきゅうの現場から 活動レポート 素朴な疑問Q&A特別企画 表紙 総集編 バックナンバー バックナンバー