けんきゅうの現場から
2019年5月号

農地再生のための作物栽培とバイオガス化を組み合わせた循環システム

小林 拓朗

除染後農地でのソルガム栽培

飛散した放射性物質の影響を受けた福島県の一部の地域においては、土壌表面の除染が行われた後も、未だ多くの農地で耕作(食用作物栽培)が行われずに放置された状態となっています。こうした農地での耕作の再開は、担い手の高齢化、風評被害、野生鳥獣被害、除染のための表土剥ぎ取りによる地力(農作物の生産能力)低下など多くの問題によって難しいものとなっています。表土が剥がれ、耕作が行われなくなって数年間経過した農地は、土壌の養分が損なわれている上に、保水性・保肥性等にも問題があり、通常の農作物を栽培しても農家の持続的な経営につながる品質・収量が期待できません(図1)。農家が自ら管理できない農地に対して、現在行われている自治体による除草管理等にも予算面で限界があり、このまま放射性物質の減衰を待つために現状維持の管理をするだけなく、新しい価値を生み出しつつ将来の耕作の再開につながる取り組みが自治体を中心として待望されています。こうした背景から、食用作物栽培を再開できるまでの間、手間とお金をかけずに(粗放的に)、少ない担い手で農地を耕作しながら栽培、管理できる 作物や技術に期待が寄せられています。そこで、私たちは飼料作物としてのソルガムの栽培、ソルガムの一部牛餌利用、それ以外のソルガムと畜牛の排泄物を原料とするメタン発酵からなるシステムを検討して来ました。このシステムで使用したソルガム品種は干ばつに強く、荒地でも一定の収量が得られ、また1作毎に20t/ha近くの根茎 (有機質) が土壌に残るので、緑肥としての効果が期待できます。このような栽培を繰り返しつつ、土壌生物相を豊かにするとされる1)メタン発酵液を液肥として土壌に散布することで、農地の地力の向上を図りました。図2に示すのは2018年6月に富岡町で栽培を開始したソルガムの成長時の様子です。6月から9月までの約4ヶ月の栽培で、大きなものは4m以上の高さにまで成長しました。一方、福島県のこうした地域では牛の畜農も徐々に再開されていますが、輸入に頼る餌代の高さと、震災前と比較して家畜排泄物の引取先が大きく減少したことが、経営を圧迫する事態となっています。ソルガム栽培による餌の提供と、メタン発酵による排泄物の引受けは、こうした畜農家の経営を助けることにも役立つと考えています。

図1 表土が剥がれた農地
図1 表土が剥がれた農地
図2 ソルガム栽培後の農地(9月)
図2 ソルガム栽培後の農地(9月)

ソルガムメタン発酵によるバイオガス生産と発電

私たちの実証実験では、牛餌としては少量を試験用に使用し、収穫されたソルガムのほとんどはメタン発酵に供することにしました。腐食を防ぐためにサイレージ化した (酸素が入り込まないようにパッキングして乳酸発酵を進めた) ソルガムを、少しずつ取り出して5 m3の容積をもつ中温メタン発酵タンクへ投入しながら、発酵と発電の実証試験を行いました。欧州ではメタン発酵を目的として農作物を栽培する事例も多いのですが、農作物だけを原料としてメタン発酵を行うことの難しさも報告されています2),3)。私たちがソルガムのメタン発酵で直面したのは、ソルガムの濡れ性の悪さ(水の浸透しにくさ)と栄養素バランスの問題でした。湿式のメタン発酵では、水または発酵液で固形性の原料を希釈します。ソルガムは水が浸み込みにくいので、水より軽くなり、発酵タンクの中で浮上して層を形づくります。ソルガムを使ったメタン発酵の室内実験では、この層によって発酵液の粘性が急上昇し、撹拌することができなくなりました。同様の現象は欧州の研究者も報告しています2)。 稲わらのような原料では、酸処理や蒸煮爆砕(圧力釜の中で原料を高温水蒸気にさらした後、急激に減圧する方法)といった物理化学的な処理によって濡れ性が改善したとされる報告がありますが、私たちの試験では大掛かりな機械設備を用意できなかったため小型の電動破砕機で対応しました。粉砕によりソルガムを数ミリメートルの破片にすることで、1年近くの間、低い粘性を維持できることが室内実験で確認できたため、その方法を現場でも適用しました。一方、栄養バランスの問題とは、ソルガムが含有する栄養素と、発酵を担う微生物群が生育するために必要とする栄養素が一致しないということです。メタン発酵に関わる微生物群集は、炭素、窒素、硫黄、リンといったよく知られた元素の他に、鉄、ニッケル、モリブデン、コバルトなどの金属元素も、ほんのわずかですが栄養素として必要とすることが知られています4)。ところが、ソルガムはそういった栄養素の多くを十分に含有していませんでした。一般に、作物を発酵原料として使用しているメタン発酵施設の多くで、そういった栄養不足が発生していることが 実施設の調査から報告されています5)。私たちの研究では、不足する栄養素をわずかに原料に添加することで、メタン生成の活性を未添加の場合より2倍近く増大させることが確認できました。そのため、実証施設においても栄養素供給タンクを設けています。このようにして、ソルガムの安定したメタン発酵が実現できました。図3は2019年1月に催された発電のデモンストレーションの様子です。今後は、事業の様々な展開を想定して、様々な原料の受け入れ、それらにおける上で述べたような問題、および高濃度の放射性セシウムが作物に混入してしまった場合の安全面の確認などについて放射性Csの挙動把握と安全管理について、研究を続けていく予定です6)

図3 メタン発酵発電のデモンストレーションの様子 図3 メタン発酵発電のデモンストレーションの様子
<参考文献>
  1. 1) Sapp M., Harrison M., Hany U., Charlton A., Thwaites R. (2015) Comparing the effect of digestate and chemical fertiliser on soil bacteria, Applied Soil Ecology, 86, 1-9.
  2. 2) Thamsiriroj, T., Murphy, J. D. (2010) Difficulties Associated with Monodigestion of Grass as Exemplified by Commissioning a Pilot-Scale Digester, Energy & Fuels, 24(8), 4459-4469.
  3. 3) Thamsiriroj, T., Nizami, A.S., Murphy, J.D. (2012) Why does mono-digestion of grass silage fail in long term operation?, Applied Energy, 95, 64-76.
  4. 4) Hendriks, A.T.W.M., van Lier, J.B., de Kreuk, M.K. (2018) Growth media in anaerobic fermentative processes: The underestimated potential of thermophilic fermentation and anaerobic digestion, Biotechnol Adv., 36(1), 1-13.
  5. 5) Lindorfer, H., Romhold, D., Frauz, B. (2012) Nutrient and trace element supply in anaerobic digestion plants and effect of trace element application, Water Sci. Technol., 66(9), 1923-1929.
  6. 6) 株式会社エコロミ 他 (2019) 平成30年度地域復興実用化開発等促進事業成果報告書.
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