けんきゅうの現場から
2018年9月号

コンビニの食品ごみはどこに行く?-日本とタイの事例-

久保田 利恵子

コンビニの食品ごみ問題

コンビニで売られているサンドイッチ、おにぎりなどお弁当類や、レトルト食品、乳製品などは、販売期限を過ぎると、たとえまだ食べられるものでもすてられてしまうとを知っていますか? 販売期限が近づいた食品をコンビニ店員が買い物かごに入れて店舗裏に運んでいる姿を見かけたら、そのかごの中の食品はすてられる運命の食べ物です。コンビニは消費者にとって「便利」な存在であることが至上命題。この目的を果たすために、常に新鮮な食品の在庫があることがコンビニ店舗には求められています。このため、過剰な発注が起こり、結果として多くの食品をごみとしてすてているのです。コンビニで発生する食品ごみは、販売期限切れの食品のうち、大きく分けてお弁当類、店内調理品、その他加工食品、また店内調理から発生する廃食用油などです。コンビニを含む食品小売業では年間約30万トンを食品ごみとしてすてていると推計しています。このうち肥料化、飼料化、メタンガス回収などで再利用されている割合はわずか8.2万トンです(平成25年度農林水産省による推計)。コンビニ店舗から出る食品ごみは1店舗1日あたり、大体10~12kg程度といわれています。2018年6月現在、全国にコンビニは55,320店舗あるので((一社)日本フランチャイズチェーン協会調べ)、単純に計算するとコンビニ店舗がすてている食品ごみだけで年間約24万トンになります。

日本のコンビニの食品ごみ対策

日本のコンビニでは、残念ながら食品ごみになってしまったコンビニ食品に対して、どのような対策が行われているのでしょうか。まず、店舗から出る食品ごみは、事業系一般廃棄物(商業施設などから出るごみの種類をこう呼びます)として、自治体で処理されています。ごみの分別ルールは自治体によって違いますので、店舗がある地域のルールに則って分別し、廃棄物収集運搬業者が店舗から回収しています。適正な処理を進める一方、日本では2002年に食品リサイクル法が定められており、食品のリサイクルも行われています。

まず、コンビニから出される食品ごみは、大きく分けて食品と廃食用油に分けられます。食品ごみの一番多いリサイクル方法は家畜のえさにすることです。あるコンビニチェーンでは、コンビニのお弁当調理をしている業者と契約している養豚場で食品ごみを飼料として豚に食べさせています。食品ごみ由来のえさで育った豚は、コンビニのお弁当のお惣菜の豚肉となり、食品ごみを循環させる仕組みが作られています。この他には、肥料として利用したり、食品ごみの処理段階で発生するメタンガスを利用して熱回収したりする事例があります。一方、廃食用油は飼料の原料にしたり、インクや石鹸を作ったりしているコンビニチェーンもあり、廃食用油をのリサイクルしてを行っている店舗はコンビニ全体の94%に上り、食品ごみのリサイクルよりも進んでいます。

あるコンビニ企業では最近の新しい試みとして、店舗の改装時に発生する在庫商品の一部をセカンド・ハーベスト・ジャパンというNGO(非営利組織)を通じて、生活に困窮する人々に提供する試みも始まりました。こうした取り組みはフードバンクと呼ばれ、食品衛生上問題がなくても、容器の破損や賞味期限が迫っている食品を、食料を必要としている人々に提供する活動として日本でも少しずつ広がっています。一方、コンビニで売っている食品をごみにしないことが本来一番優先されるべき食品ごみ対策です(専門用語でごみの「発生抑制」といいます)。農林水産省は、コンビニを含む食品産業が食品ごみの発生抑制により具体的に取り組むよう、発生抑制の目標値を定めました。コンビニは、売り上げ高100万円あたり、44.1kgという目標値が定められています。

タイのコンビニの食品ごみ対策

写真1:タイの店舗に置かれた貧しいコミュニティに提供した食事数を示したパネル 写真1:タイの店舗に置かれた貧しいコミュニティに提供した食事数を示したパネル

さて、世界の中でコンビニ店舗数を増やしているのはタイです。2018年2月には全国で2万店舗を超え、日本に次ぐコンビニ社会となっています。販売期限の短いお弁当やおにぎりなどの食品は、チルド流通システム整備の遅れなどからタイのコンビニではあまり売られていませんでしたが、過去数年、コンビニチェーン各社の販売戦略は食品の利益率が高いことから調理済み食品に力を入れています。タイには食品リサイクル法などの法律はまだないため、コンビニから出る食品ごみの削減を推進する政策やごみの量など具体的な数字はありませんが、コンビニチェーンの聞き取りによると、1店舗1日あたり、10リットルごみ袋2つ分、約20kgのごみが出され、うち8割程度である16kgが食品ごみということです。食品ごみは他のごみと混ざっており、自治体が収集運搬しています。

タイで最も店舗数が多いセブン-イレブンでは、店舗毎のごみ管理ガイドラインを作り、店舗裏の廃棄物管理場所で一日一回ごみを分別し、食品ごみを仕分けることを定めていますが、ガイドライン通りにごみの分別がなされるよう店舗に指導することはなかなか難しいようです。このため、タイのコンビニのほとんどは、店舗毎の環境配慮というよりも経営目標の一環として総売り上げに対してごみとして廃棄する商品の金額を約1%以下にすることを定める取り組みを行っています。

そんな中、タイでコンビニやスーパーマーケットなどの小売業を展開する食品小売りチェーンが始めているのが、日本の食品ごみ対策でも紹介した、フードバンクの試みです。お弁当、加工食品、生鮮食品などの販売期限切れ食品を、食べ物を入手することが困難な貧困層の人たちに配給する、というプログラムです。販売期限切れ食品(消費期限を経過していない食品)は食品ごみではなく、まだ食べられるけれども陳列には適した品質ではないことから "Less than perfect products(不完全商品)"と呼んで食べ物を必要としている人々に提供しています。2017年には、オーストラリアのオース・ファーム(AusFarm)というNGO(非政府組織)の支援によって設立されたタイ・ハーベスト(Thai Harvest)というタイのボランティア団体を通じて、貧しい人々への食料提供のルートを開拓してきました。こうしたプログラムは小売の店舗やチェーンだけで取り組むことは難しいため、NGOが食品を必要としているコミュニティを見つけ出し、小売店舗から食品を届ける配送の仕組みなどを食品小売りチェーンと一緒に検討しています。タイでは、食品配送の仕組みをタクシー業界と連携することで、一般のタクシーが店舗からコミュニティまで食品を運び届ける役目を担っています。このプログラムを通して1年で105万食を貧しい人たちに提供しているそうです。コンビニ業界においても適切な外部団体との連携によって食品ロスの活用を実現することができると証明している事例です。

販売期限切れの食品を貧しい人に提供するというのはモラルとしてどうか?という声もあるかもしれません。ただ、食品の販売期限は、通常、食品の消費期限よりも早く設定されていることがほとんどです。このため、まだ食べられる食品ではあっても、店舗で陳列販売するには適していない品質の食品が生まれます。このギャップに目を付けて、野菜、加工食品、乾燥食品などを1パッケージにして、食料を必要としている人々のもとに届けることにしているのです。タイでは、もともと仏教の教えに基づき「食べ物を粗末にしない」という考え方が根付いているため、このような取り組みが展開され始めていることは自然な流れともいえるかもしれません。この活動は、食べ物を必要としているコミュニティとのマッチング、人々に提供するための輸送手段など、すてられる食品ごみの行き先を確保することが必要となり、コンビニチェーンだけでその仕組みを作り出すことはできません。こうした取り組みは、単に経営効率の一環で取り組まれる食品ごみ削減ではなく、タイ社会に根付いている思想、価値観の実現のため始まっている取り組みといえます。

食品ごみを減らす世界的な取り組み

2015年9月に開かれた国連サミットで、SDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。先進国、途上国問わず、世界の人々が一丸となって達成するべき社会的課題が17つ定められ、それぞれに2030年までに達成すべき詳細な目標が設定されています。食品ごみについては、目標12「持続可能な消費と生産」という社会的課題の中で、2030年までに、世界の小売・消費レベルで発生する食品ごみを半減するという目標が定められています。この目標を達成するためには、生産を担う企業と、消費を担う消費者両方がこの問題を認識して取り組む必要があります。

コンビニは、その名の通り便利なことから、今では、日本やアジアの国々の人々の生活になくてはならない存在です。消費者に便利さを提供することがコンビニの命題になっていることを最初の段落に書きました。忙しい毎日を送っていると便利であることは本当にありがたいことです。でも、コンビニが便利さ追求のためにたくさんの食品を無駄にしているとことを知ったとしたら、それでも消費者として便利さを追求するべきでしょうか。この問いへの答えはおそらくイエス・ノーの二択ではありません。今回紹介した食品ごみ対策など知恵を絞って、便利さの追求と、無駄を減らすことの両方を実現する対策を企業や消費者、先進国や途上国に関係なくこれからも考えていくことがSDGsでも求められているのです。

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