けんきゅうの現場から
2018年3月号

実務家と連携してデータをあつめる -国際協力機構編-

横尾 英史

はじまりは一通のメールでした

「国際協力機構(JICA)インドネシア事務所で上下水道・廃棄物処理セクターの担当次長をしております、原田と申します。」

ある研究発表会で私がベトナムでの調査結果を発表した直後のことでした。その会で私の発表を聞いたJICA研究所の方が、インドネシア事務所の原田徹也さんに私の発表内容を伝えてくれたのです。そして、私の研究に関心を持ってくれた原田さんが「研究発表会での資料をお見せいただくことはできませんか」と問い合わせをくれました。いただいたメールは次のように終わっていました。「また、横尾先生のご関心事項で当方にもお役に立てる話がありましたら、教えていただけましたらと思います」。この一文が、私をインドネシアでの研究にいざなってくれました。2016年を迎えてすぐの出来事でした。

いざ、インドネシアへ

それから何度かメールをやり取りし、1か月半ほど経った後にインターネット電話サービスを使って議論しました。日本とインドネシアの時差を考慮してお互いの予定を調整し、原田さんとインターネットを通した初対面です。廃棄物の分別や適正管理をインドネシアでいかに進めていくかについて、多くの論点があがったのを覚えています。

この議論で知ったインドネシアの政策に、Tempat Pengolahan Sampah 3R (TPS-3R)というものがありました。多くの先進国では、ごみの収集・運搬を自治体や民間企業が行っています。しかし、インドネシアでは公的セクターによるごみの収集が十分に行き届いておらず、結果的に不法投棄や不法な焼却処分が多発しています。政府・自治体には収集サービスを実施するために人を雇う財政的な余裕があまりないことが原因の一つです。そこで政府は、TPS-3Rと呼ばれる施設や収集車などを提供し、地域コミュニティの有志に収集サービスを運営してもらおうということを考えました。コミュニティの住民主導で家庭の廃棄物の収集や、リサイクル可能な物の分別、生ごみのコンポスト化などを行ってもらおうという政策です。

当時、JICAではインドネシアとの二国間技術協力事業として「3R及び廃棄物適正管理のためのキャパシティーディベロップメント支援プロジェクト」という事業を実施していました。これは、インドネシア政府の廃棄物管理に関する法令整備を支援するとともに、特定の地域で、ごみ銀行という仕組みやTPS-3R政策など、行政やコミュニティによる廃棄物管理の体制強化を行うことで、インドネシアの3Rを進めるものでした。

春になり、桜も散ったころ、今度は次のようなメールが原田さんから届きました。「5月の中旬か下旬にTPS-3Rの優良事例がある自治体を訪問する可能性がありますが、この際にインドネシアにいらっしゃるといったご関心はございますか?」このお誘いに飛び乗った私は、文字通り飛行機に飛び乗りました。2016年5月、初めてのインドネシアです。この最初の渡航では、ジャワ島のマラン、スマトラ島のパレンバンという2都市を訪れました。3泊5日で、2都市のごみ銀行、TPS-3R施設と運営コミュニティを訪れました。原田さんとのオフラインでの初対面は、マランの空港でした。

JICAスタッフさんと現地コミュニティのみなさんとの出会い

写真1:JICAパレンバン事務所にて。右から2人目が高嶋さん、3人目が筆者。そのほかは現地スタッフ。 写真1:JICAパレンバン事務所にて。右から2人目が高嶋さん、3人目が筆者。そのほかは現地スタッフ。

現地では、駐在されていたJICA専門家(当時)の片山仁志さんや高嶋成治さん、パレンバンで採用されたインドネシア人スタッフらとの出会いがありました(写真1)。私が驚いたのはJICAのみなさんの事業に対する熱意とデータ収集への力の入れ方です。ある地域の廃棄物管理をよりよくするためには、まず対象地域の廃棄物の状況を調べることが重要です。あやふやな現状把握では、改善案も的外れなものとなりがちだからです。このプロジェクトでは、現状把握のために500世帯を対象として廃棄物の重さを計測し、さらに有機ごみ、資源ごみ、その他の割合を家庭ごとに計量していたのです。これを500世帯対象に6日間やっており、家庭ごとの廃棄物排出の違いや日ごとの違いを調査していました。また、その500世帯のインタビュー調査もしていて、何人家族なのか、子供はいるのか、どのような教育を受けてきたか、環境意識は高いかといった情報を収集していました。

これらのデータを分析すれば、地域の廃棄物排出量を推計できる上に、「廃棄物排出量が多いのはどのような家庭か?」、「どのような家庭ほど生ごみの割合が大きいか?」といったことを明らかにすることができます。上述のような廃棄物の組成調査を当研究センターの同僚も行っていますが、500世帯という規模で行うことは非常に珍しいです。何より、大変な労力や時間を要します。これだけの定量的なデータを収集すれば、その後の廃棄物管理をよりよく改善することが可能となります。

また、JICAでは啓発活動を行うことで家庭の意識や廃棄物排出行動を変えようという試みをしていました。特筆すべきは、その啓発活動の後にも、再び500世帯6日間の廃棄物排出の調査やインタビューを行い、啓発活動がもたらす効果について厳密な評価にも取り組んでいたことです。自分たちの支援策が本当に環境問題を改善するか?コミュニティの人たちのためになっているか?こられを定量的に明らかにしようとしていた姿勢に驚かされました。

ミッション!コミュニティのごみ収集に多くの人を巻き込もう

翌年の2017年には、パレンバン市のあるコミュニティによるごみ収集サービスの対象エリアを拡大するという挑戦にJICAが支援を行い、私自身も参加しました。コミュニティによる環境問題への取り組みは近年、注目を浴びているアプローチです。ただ、小規模には立ち上げることができても、それを持続させ、スケールアップすることが難しいという課題が指摘されています。パレンバンのコミュニティによるごみ収集の取り組みでもその課題に直面しました。運営側の住民グループに対し、他の住民が月々のサービス料金を支払って、収集してもらう仕組みなのですが、この仕組みに参加してくれる住民がなかなか増えませんでした。この難しい課題にパレンバンのあるコミュニティとJICAのみなさんがチャレンジされたのです。

私は専門とする経済学の知見を参考にしながら、どうやってより多くの地域住民を巻き込んで、コミュニティのごみ収集を普及させていけるかを考えました。JICAのみなさんは私のアドバイスも取り入れてくれて、参加者を増やす作戦を練りました。そして、仕組みに参加してくれる家庭を増やすために、運営側の住民グループ(写真2)による組織的な勧誘を行うことになりました。JICAのみなさんと私で考案した勧誘の作戦を運営側の住民グループに伝え、練習を行い、いざ実際の勧誘を行いました(写真3)。原田さんからメールをもらってから、ちょうど1年が経過していました。

写真2:パレンバンのTPS-3Rを運営する住民らと筆者 写真2:パレンバンのTPS-3Rを運営する住民らと筆者
写真3:勧誘作戦のミーティング風景。右から2人目が筆者。 写真3:勧誘作戦のミーティング風景。右から2人目が筆者。

ここで強調したいのは、JICAのみなさんと私はこの勧誘プロジェクトの間も一部始終を調査し、データを収集していたことです。まず、勧誘する対象となる750世帯をリストアップし、勧誘中もその様子を観察しました。どの運営側のメンバーがどう勧誘したか、どの家のどういった方が玄関で対応したか、勧誘に何分かけたか、その結果、どういう反応だったか。私の方で調査項目や調査票を英語で用意し、現地スタッフが翻訳し、調査を実施しました。さらに、参加者からのサービス料金の集金を記録している手書きのノートを電子化することで、どの家庭がごみ収集の仕組みに参加したか、いくら支払ったかも正確に把握できるようにしました。

どのように勧誘すれば参加者を増やせるかという点に着目して、現在、私がデータを計量経済学的に解析しています。ここから何かの発見をして、学術論文として公表したいと考えています。そして、得られた発見をパレンバンのコミュニティと共有し、さらにはインドネシア政府とも共有し、インドネシア全土のよりよい廃棄物管理に役立ててほしいです。

たくさんの出会いで集まったデータ

これまで私は、アジア新興国の廃棄物問題の改善に向けて、文献から情報収集を行い、時には自分自身の研究予算で調査員を雇いデータを収集してきました。しかし、研究者の私一人の作業では机上の空論になりがちで、今、世界で起きている問題を十分に把握できていないように感じていました。今回は、環境問題の現場で働く実務家のみなさんと協働させてもらうことで、データを収集しました。それにより、現実をより反映した詳細なデータを収集できたと考えています。その過程では、JICAの職員さん、専門家さん、インドネシア人スタッフたち、さらには現地コミュニティのみなさんとの出会いがありました。これまでの記事でも書かれていますが、アジア新興国でデータを収集するには、多くの人たちとの信頼関係が必要となると実感しました。たくさんの人との出会い、人と人との信頼関係の構築、その結果、研究に必要なデータを収集することができる…こともある、というお話でした。次にどんな出会いと発見があるかを楽しみにしています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 横尾英史 (2018) 「植田先生に招待された廃棄物とリサイクルの経済学の展望-途上国・行動経済学・フィールド実験-」. 環境経済・政策研究、11(1)、pp.30-38
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