けんきゅうの現場から
2017年4月号

種子島を訪ねてみたら

中島 謙一

種子島は、本土最南端の佐多岬より南東に約40キロの位置にある島です。近年では、世界一美しいロケット発射場としても知られている種子島宇宙センターからの大型ロケットの発射などが注目を集めており、「宇宙に一番近い島」とも呼ばれています。また、読者の皆さまのなかには、中学生の社会科の授業などにて、「鉄砲伝来の地」と習った記憶がある方も多いかと思います。また、近年では、「自然と共生するスマートエコアイランド種子島」 1構想など、学際的な研究とその成果の実装の場としても注目を集めつつあります。私が専門とするライフサイクルアセスメント(LCA)分野においても、複数の研究グループが種子島をフィールドとした研究に関わっています。

しげる&じゅんしかしながら、私が、最初に種子島に訪れたのは、2016年7月に少し早い夏休みをとって家族旅行を楽しむためでした。出発前の私には、まさか約3か月後に、研究を目的として再訪問を果たすことになるとは思ってもいませんでした。そのきっかけとなったのは、子供との海辺での砂遊びで砂鉄を含む黒い砂浜を見たこと、そして、種子島開発総合センター鉄砲館 2への訪問でした種子島への家族旅行から戻った私は、(一社) 日本鉄鋼協会にて、共に活動している研究者仲間に連絡を取りました。日本鉄鋼協会の環境・エネルギー・社会工学部会では、鉄鋼業が社会で果してきた役割、また未来社会において鉄鋼業の果すべき役割を議論する場として、様々な分野横断的な研究に取り組んできました 3。そして、その一環として、たたら製鉄を含めた「鉄の歴史」に係る研究と議論が行われており、たたらの操業実演などにも取り組んできた経緯があります。たたら製鉄を通じたモノづくり教育にも携わる山末英嗣氏(立命館大学)らに話したところ、「種子島を舞台とした体験型学習プログラムというのは面白いのでは?」という事になり、実現に向けた検討をすすめる事になりました。

現在は、種子島の地域資産としての「たたら製鉄」に注目して、山末先生らと共に、地域資産を活用したモノづくり・環境教育プログラムの作成に関する検討を進めています。体験型プログラムとして、たたら製鉄の実習を行った上で、材料の調達経路、独自の製鉄法が形成された理由、あるいは製鉄の原理を学習すると共に、資源利用が直面する環境問題、解決策としての3Rの役割を学ぶ事を教材の骨格として議論を進めています。2016年10月には、郷土史家の鮫嶋安豊氏4への訪問、砂鉄のサンプリング、更には、古代製鉄遺跡の訪問を行いました。現在は、その際に得られた資料の整理およびサンプルの分析を各機関で進めると共に、プログラムの作成を含めたプロジェクトの実現に向けて議論と準備を進めているところです。

種子島は、鉄砲伝来・和製火縄銃の発祥の地であると共に、日本古来の製鉄法である「たたら製鉄」や「鍛冶」が文化として根付いた地域でもありました。このたたら製鉄は、日本古来の製鉄法であり、微粉末の砂鉄を用いる独特な製鉄として世界でも非常にユニークな技術としても知られています。種子島においては、製鉄原料である砂鉄および照葉樹林に恵まれていたことから、他の地域とは異なる歴史的風土、更には、製鉄・鍛冶文化が根付いたといわれています4。しかしながら、この地域資産は、十分には活用・継承されずに、資料館や史跡、あるいは、僅か1つとなった鍛冶製作所にて面影を知ることに留まります。この眠れる地域資産が、青少年の理科離れに歯止めをかける科学教育のきっかけに、更には、地域資産を活用した教育推進による地域振興への貢献などに繋がっていくことを夢見て議論と準備を進めています。プロジェクトが始まったらまた紹介させて頂きたいと思います。

  • 写真 海岸でのサンプリングの様子海岸でのサンプリングの様子:
    黒い模様は砂鉄
  • 写真 海岸でのサンプリングの様子海岸でのサンプリングの様子:
    強力磁石で採取した砂鉄
  1. 種子島西之表市, 自然と共生するスマートエコアイランド種子島,
    http://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/keizaikankoka/shoukouseisaku/ecoiland/index.html
  2. 種子島開発総合センター 鉄砲館,
    http://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/kyouikuiinkai/shakaikyouikuka/bunkagakari/center/index.html
  3. 原 茂太, 足立 芳寛, 友田 陽, 中村 崇, 雀部 實, 長坂 徹也, 山本 高郁, 醍醐 市朗, 中島 謙一 (2014). 鉄鋼環境研究における社会鉄鋼工学部会の貢献, 鉄と鋼, 6(100), 728-739.
  4. 鮫嶋 安豊 (2002). 種子島の製鉄の歴史-遺跡の現状とその技術を知る-, ふぇらむ, 5(7), 343-350
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