けんきゅうの現場から
2015年6月号

ごみの組成から焼却灰の化学性状を予測する

由井 和子

焼却灰のなかみ

資源循環・廃棄物研究センター(循環センター)では、一般廃棄物(都市ごみ)および産業廃棄物の処理・処分とリサイクルの問題に関してさまざまな取り組みを行っています。一般廃棄物とはおもに家庭から排出されるごみのことであり、厨芥類(食物屑)、草木、紙ごみ、プラスチック、金属片など雑多なものから構成されていますが、これをごみ処理施設で加熱・焼却すると、焼却主灰・飛灰溶融スラグになります。一般廃棄物には水分・可燃分のほか、カルシウム、ケイ素、アルミニウムをはじめとする多くの金属元素が含まれ、また微量ですが金や銀などの有用な元素、重金属などの有害元素を含んでいます。これらの元素は焼却炉の中で燃えているときや、冷やされるときの物理・化学変化によって、元素の性質に応じて酸化物や塩化物など様々な化合物となって焼却灰の成分になります。焼却灰において、有害元素や有用な元素がどのような化合物となっているのか知ることは、灰のその後の処理を考える上でとても重要な情報であるため、大学をはじめとした各研究機関で分析されており、当センターでも焼却施設から焼却灰を御提供いただいて分析を行っています(2013年4月号「放射性物質に汚染された廃棄物の焼却施設の現地調査」)。

焼却灰のなかみを計算で予測する

ごみを燃やした場合に、どういった灰が発生するのかをあらかじめ予測できれば、有害なものを効率的に除去し、または有用なものを取り出して有効利用することにつなげられるでしょう。当センターでは各種のごみを実際に燃やして得られる焼却灰を分析する研究や、有害・有用物質の挙動を予測するための計算方法の開発を行っています。ここでは計算についてご紹介します。

図1 ストーカ式焼却施設の模式図図拡大

図1 ストーカ式焼却施設の模式図

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図2 元素ごとの主灰、飛灰への分配の計算結果


図1にストーカ式焼却炉の模式図を示します。この炉では、ごみピットから廃棄物が焼却炉に投入され、焼却炉内をゆっくり移動しながら燃焼し、その燃えがらが炉底から主灰として搬出されます。排ガスは冷却・洗浄された後に排出されますが、排ガスに含まれていた金属の化合物がボイラー等のガス冷却の設備を通過する際にばいじんとして析出し、最終的にバグフィルタなどの集じん器で飛灰として捕集されます。元素の挙動を予測するための計算では、このように焼却施設内の温度が異なる部分の変化を順を追って計算する必要があるため、施設の運転データや、投入されるごみの元素組成も必要です。そこで焼却炉に関わる方々に御協力頂いてそうした情報を集め、ごみの元素のうちどの元素が飛灰になりやすく、どれが主灰になりやすいのかを計算しました。結果を右図に示します。矢印の太さが灰への移行率を表しています。複雑な焼却炉の中の過程を完全に表せるわけではありませんが、気体になりやすい塩素(Cl)やアルカリ金属(K, Cs)は飛灰になりやすく、気体化合物を作らないアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)は主灰に含まれやすいなどの傾向が表せるようになりました。今後も実際の施設を再現するように精度を高めるとともに、完成したら多くのみなさまに使っていただければと思っています。

参考資料
  1. 2014年5月「汚染廃棄物焼却過程における放射性セシウムの化学形態を推定するために
  2. 平成26年度 災害環境研究報告書 第2編 環境回復研究1 放射性物質汚染廃棄物管理システムの開発(発行予定)
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