けんきゅうの現場から
2013年11月号

熟議型の市民参加手法

秋山 貴

環境行政における市民参加

かつては地方自治体が政策(自治体が目指すべき方向や目的を示すもの)、施策(政策を実現するための方策)、事業(施策を実現するための具体的な手段)を全て担っており、そこには市民の声は必ずしも直接的には反映されていませんでした。しかし、社会が複雑化して人々の意見が多様になったこと、自治体の財政が厳しくなったことなどから、市民ニーズ(要望)を的確に把握して政策・施策・事業の優先順位を明確にし、さらには幅広い関係者間の利害調整や合意形成を図る必要が生まれました。そのような背景のもと、行政活動に市民意向を反映させる仕組みである「市民参加」が進んでいます。これは環境行政にも当てはまり、例えば、環境分野の条例や計画の策定において住民意見を取り入れた自治体の割合は8割を超えています。

新しい市民参加手法

これまで市民参加の方法として、審議会(学識経験者や利害関係者、市民が政策などに関する提言を行う自治体の機関)やアンケート調査、パブリックコメント(行政の政策立案過程で市民の意見を募集する制度)が主に用いられてきました。これらは今後も主流の方法であると考えられますが、参加者が限られており代表性が確保されない(審議会)、十分な情報を持たないまま表面的な意見を述べる(アンケート調査)などの欠点が指摘されています。そこで、それらの課題を克服するため、表1に示すようにいくつかの"熟議型の市民参加手法"(熟議型参加手法)が提案されています。

(表1 主な熟議型の市民参加手法)
○ プランニングセル(プラーヌンクスツェレ)
市民の中から無作為に選ばれたメンバーが、少人数の基本単位(細胞)に分れて討議し、討議にもとづいて提言を作成して計画づくりの指針とする制度
○ 討論型世論調査(DP)
討論のための資料や専門家から十分な情報提供を受け、小グループと全体会議でじっくりと討論した後に、再度、調査を行って意見や態度の変化を見るという社会実験
○ コンセンサス会議
一般からの公募などで選ばれた20名前後の「市民パネル」が、社会的な論争となっている話題に対して、詳しい複数の専門家と対話しながら、市民パネルとしての合意(コンセンサス)を目指して議論を進める会議手法
出典:でこなび-参加型手法と実践事例のデータベース

これらの参加手法におおよそ共通の特徴としては以下が挙げられます。

イラスト:じゅん&たまき
  1. ① 社会全体から参加者を無作為に抽出する(注)
  2. ② 中立的な専門機関からの情報提供を受ける
  3. ③ 議題について小集団に分かれて参加者同士で討論を行う
  4. ④ 参加者が熟慮を経て議題についての意思を表明する

(注)無作為抽出は、調査対象である母集団から特別の意図を働かせずに(くじ引きや乱数表などを利用して)対象者を選び出す方法です。ただし、この①の条件が満たされていない手法もあります(表1の「コンセンサス会議」参照)。

自治体計画策定における熟議型参加手法

図1 市民討論会の様子(沼津市) 図1 市民討論会の様子(沼津市)
出典:沼津市環境基本計画

熟議型参加手法の一例として、自治体環境基本計画策定の一環として行われた市民討論会を紹介します。これは、静岡県沼津市の環境基本計画策定過程において実施されたもので、「環境基本計画の重点プロジェクト(施策)」について検討を行いました(図1)。具体的には、選挙人名簿から無作為に選ばれた市民より参加者を募った結果集まった市民35人、公募によって選ばれた市民31人が討論を行い、8つの重点プロジェクト案から3つのプロジェクトを選択しました。そのうち2つのプロジェクトが最終的に環境基本計画において採用されるなど、討論会の結果が実際の環境行政に反映されました。

今後の市民参加の方向性

2012年夏には、政府主催で「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」が行われました。このように、今後は熟議型参加手法が進むものと考えられます。しかし、これらは準備期間が長い、開催費用が高いなど、現状では実施が必ずしも容易ではない短所があります。また、手法についての調査・研究も道半ばです。このことから、先に述べた審議会、アンケート調査、パブリックコメントなど従来型の参加手法と併用されるものと思われます。いずれにしろ、今後とも環境行政における市民参加を進展させていく必要があります。

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